2019年9月9日
高齢者人口の増加で心配されているのが認知症の増加です。睡眠時無呼吸症候群がアルツハイマー病の原因の一つではないか、と考えさせる研究論文が発表されています。
Q. 認知症とは何か
認知症とは、脳の変性疾患や脳血管障害によって、記憶や思考などの認知機能の低下が起こり、6カ月以上にわたって、日常生活に支障をきたしている状態です。主な原因疾患は、脳の変性疾患であるアルツハイマー病が一番多く、次いで、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって起こる脳血管性認知症が多くみられます[1]。
Q. アルツハイマー病の発症原因
アルツハイマー病では脳の中の神経細胞のつながりがうまくいかなくなっているのが特徴です。脳の中で記憶に関係する部位にアミロイド、神経細胞の中にタウという異常たんぱくが蓄積し、はじめに海馬が萎縮して、最後には脳全体が萎縮します。このような変化は症状が出る10年以上前から起きていると考えられます。約10%の家族性アルツハイマー病では遺伝子の異常が判明してきていますが、ほとんどの患者は異常たんぱくが蓄積する原因はわかっていません[2]。
Q. 閉塞性睡眠時無呼吸症候群の脳内のアミロイドβの関係
Sharmaらは認知症がない健康な高齢者、208人を対象として2年間、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)が原因となっているかどうかを検討しました。腰椎穿刺により髄液を取り中に含まれるアミロイドβ、タウを測定。アミロイドの沈着が脳に起こっているかどうかを見るため脳のPET検査を実施。OSAの診断は通常の検査方法で実施しました。
計208人のうち、軽症のOSAは76人、中等度、重症は35人。この中にCPAP治療を行っている人は含まれていません。AHIの重症度は、髄液中のアミロイドβと統計的に有意な相関性があることが判明しました。しかし、脳内のアミロイドβ沈着とは相関が証明できませんでした。
その理由として、PET検査を経過中に2回、実施できた症例が少なく統計的な有意差とならなかったとしています。またタウとの統計的な関連性は証明できませんでした。
Q. OSAは認知症の原因となるか
研究を実施したSharmaらは慎重に結論しています。
OSAが直接的な原因となるかについては結論を出すことができませんでしたが、OSAがある人では、脳組織から髄液中に移動、処理されるアミロイドβの動きが鈍くなること、その結果、脳組織に沈着しやすくなり、沈着の結果、睡眠の規則性が乱され、さらにOSAが起こりやすくなるのではないか、と推論しています。OSAが、認知症やアルツハイマー病を発症させると結論できませんでしたが、OSAの重症度が深く関わっていることは事実のようです。
その理由として、OSAで繰り返し生ずる血液内の低酸素状態を推定しています。
この研究は、健康な高齢者、200人以上について、PET検査、髄液検査を繰り返し実施しています。全ての人に同じ検査を反復して実施できていませんでした。
莫大な研究費がかかると云う限界もあったのでしょうが、少なくとも健康な高齢者でOSAと認知症発症の因果関係はあると結論したことは大きな進歩と言えます。また、彼らも結論で述べていますがOSAと判明したら高齢者でも積極的に治療を開始すべきでしょう。
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