2019年10月4日
COPD(慢性閉塞性肺疾患;肺気腫、慢性気管支炎)は複雑な病気です。
呼吸器の病気ですが、肺の内部におこる複雑な病変に加え、心臓病など肺以外の多数の臓器に病変が起こることからCOPDは複合病といわれています。
治療ではこの複雑性をつねに念頭におかなければ数年間以上にわたる治療はうまくいきません。
1960年代に、COPDという病気が提唱されましたがその時代には、やせ型、肥満型の2型に分類されていました。現在では、2~5型に分類されるのではないかと言われています。
遺伝子研究が進み、体質がフェノタイプと呼ばれる病型にどのような影響を与え、それに合った治療をどのように選択すべきかが議論されています。
最近、欧州のCOPD研究の専門家グループは、さらに新しい考え方を提唱しています[1]。ここではその要点を解説します。
Q. COPDの病型とは何か
これまでは、治療を開始したときに効果の目安となるものは、医学的には「予後」という言葉で表現されてきました。COPDの予後を決める因子として挙げられたものは次の項目です。これは現在の治療方針を決める際の大まかな目安になっています。
・息切れの強さ、日常の活動度
・一時的に悪化する増悪の回数
・薬による治療でどのくらい改善するか
・病気の進行はどうか
・死亡に至る年月の予測
ここでの基本的な考え方は、重症度をどのように考えるか、日常の活動性をどのように治療の目安にいれるか、病気が日常生活にどのような支障をもたらすか、が重要なポイントですが、実際にはこれだけで治療方針を決めていくことは困難です。
Q. 治療に使われる最新情報とは何か
遺伝子研究が進み、一人ひとりの病気について個別的に診るという研究が急速に進んできました。精緻医療あるいは、個別化治療と呼ばれるものがそれです。
これらを受けて基本としてCOPDでは以下の3つの項目について情報を収集すべきであると提唱しています[1]。
・呼吸器疾患としての治療可能な範囲、領域は何か。
・呼吸器以外に合併する病気で治療が必要な領域の見分け。
・COPDを発症させた日常の行動や生活習慣に対するアドバイス。
COPDは多様な顔を示す病気であり、個別性を重視した治療方針が大切です。
Q. COPDの個別化医療の考え方とは何か
COPDは、その人だけが持つ体質(遺伝子)、大気汚染などの生活環境、喫煙などの生活習慣に加え、体内で生ずる未知の生物化学的変化が相互に反応して発症すると言われています。しかし、一人ひとりの病気は多様です。
・COPDにより身体の機能が低下し、歩行速度が遅くなることが分かっています。筋力の低下が進み、身体のバランスが悪くなり転倒して大けがをすることが少なくありません。これをサポートする家族や社会的な協力体制が必要であり、それを受け入れてくれるよう患者さんに教えていきます。
・個人的に支障となる事がら、逆にその人がうまくやっていける事がらの発見と指摘。
長い年月の治療では、独居であるか、配偶者がいるか、その健康状態はどうか、家族内に治療に協力してくれる人を見つけ協力してもらう、などは長い治療では特に大切です。
・病気を悪化させる生活習慣を変えるようにするには患者さんの立場に立ってアドバイスし、行動することの大切さを指摘しています。
Q. 呼吸リハビリテーションはなぜ大切か
リハビリテーションというと運動をすることと理解されているようですが、呼吸リハビリテーションは運動だけでは効果を上げることはできません。
呼吸リハビリテーションは1974年ごろに提唱された歴史の浅い領域です。
その後、研究が進み、患者さん全体を診て行う包括的呼吸リハビリテーションを中心とした考え方となっています。
その人に一番、必要であり、また受け入れられやすい項目を選んで組み合わせて行うことが大切です。
日常的に行う運動や食習慣の改善や指導があり、全体としてCOPDの治療ができるだけの効果を上げるように継続的に指導していきます。その中には精神的な支えも大切な項目となっています。
Q. 呼吸リハビリテーションの現状と課題
著者たち[1]は、これを表現する言葉として、個別性、複数の専門医療者(医師、看護師、栄養士、理学療法士など)による治療、高い技術力、治療が必要で可能な部分への重点的な治療を上げています。
効果を高めるためには重症度別に治療計画を立て症状の変化や日常の活動度の改善、よくなっているという感じ方を把握しながら継続することが大切であると述べています。
わが国では外来の通院で呼吸リハビリテーションを行っている医療機関はほとんどありません。米国では、それぞれの医療機関が工夫した治療方針を定期的に公開して患者さんが選びやすいようにしています。COPDの治療ではわが国がもっとも遅れている領域であるといえます。
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