2020年8月31日
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)は種々の原因で生じますが中でも肥満は、もっとも多い原因として知られています。減量はOSAで行うCPAP治療と並び、最も大切な治療法の一つとなっています。
ところがCPAP治療を開始すると3-6ヶ月間にわたり体重が増加することが経験的に知られており、その報告論文もあります。その機序は不明ですが、CPAP治療でOSAが改善するので基礎代謝率(basal metabolic rate;BMR)が変化する、あるいは摂取カロリーが増加し、その結果、体脂肪成分が増加するなどの説があります。
基礎代謝率(BMR)とは、生命維持に必要な単位時間当たりのエネルギー量で成人では、1日1200~1400キロカロリーとされています。肥満が原因で生じた体重増加の結果、CPAP治療を開始する。しかし、その結果、肥満がさらに悪化するのではCPAP治療の意味は無くなりかねません。ここで紹介する論文は、CPAP治療に伴う体重増加の機序を明らかにした論文です[1]。
Q.臨床的な問題点は何か?
・CPAP治療以外の陽圧呼吸治療を開始すると体内に水分が貯留してくることが知られている。
・そこで、著者らは、CPAP開始で体重が増加するのは脂肪分の増加ではなくて体内に水分貯留がおこるのではないか、という仮説を立てた。
Q.研究方法は?
・CPAPを決められた通りきちんと使用している人たちを募り、運動量や摂食量が関係しない短期間で終了する研究を実施。脂肪や筋肉量が増加する影響を除外できるようにした。
・50-80歳までの中等ないし重症OSAでCPAP治療を6ヶ月間以上実施で、かつ1日4時間以上の使用者を募った。心不全や腎機能障害、利尿剤使用者は除外。
・研究プロトコールは24時間研究を2回実施した。継続してCPAP治療中か、CPAP中止後、1週間以内の受診、無作為に分けた。一方が終われば、期間をおいて他の研究を実施した。いずれも24時間連続の研究とした。
・各24時間研究では体重、体組成を1日4回(午前8時、午後1時、午後10時、翌朝8時)にそれぞれ測定。水分摂取量とカロリー計算(BMR)を実施。血液検査、各受診ごとにOSAの重症度を判定するPSG(polysomnography)を実施した。
Q.結果は?
・24人のうち2人は脱落。CPAP群とCPAP中止群を比較。平均62歳、平均BMI(body mass index)は31.4kg/m2。平均CPAP使用時間は5.4時間。以下は、AM8時のみのデータを示す。
・CPAP継続中と中止群では細胞外水分量はCPAP群で多い(p=0.1)。CPAP治療群は中止群よりも体重は重い(p=0.013)。BMIには差なし。24時間の尿量はCPAP中止群が多い(P=0.099)。細胞外水分量はCPAP群との中止群の差の比較では有意に前者が大きい(R=0.590, p=0.004)。
Q.何が判明したか?
・OSAでCPAP治療開始すると体重増加は体内の水分量の増加により起ることを証明した。細胞外成分の変化は統計学的に有意差なし。しかし、この研究は、短期間の観察結果なので運動量、カロリー取り過ぎ、水分取り過ぎ、BMR変化は否定される。
・これまではCPAP治療後の体重増加は脂肪、筋肉量の増加と考えられてきたがそうではないことを証明した。
・Lean body-massの増加は同じような研究で既報にあるがその増加の大部分(70%)は水分であるのでこれで説明される。抗利尿ホルモンが関与している可能性はある。しかし、尿量、尿中のNa排泄には差がなかったので否定的である。体重と細胞外水分量の変化には有意な関係があった。
・CPAP使用で細胞外水分量の増加は起こらない。しかし、CPAP使用で夜間排尿が減るのでその結果、体重増加が起こるのではないか。CPAP治療後の体重増加は代謝が陰性方向に向いているのではないことを証明した。
本研究では、CPAP開始により生ずる体重増加は、脂肪分が増加しているのではないことを証明しました。研究の方法は簡単ですが、期待された統計学的な有意差には至っていない項目もあり、人を使った研究の難しさを示しているようです。しかし、得られた結果は、CPAP開始で体重増加があるとしても脂肪分が増えて増加するという、ネガティブな増加ではないことが判明し、やや安心しました。
肥満が原因でCPAP治療を開始することになったとしても、その後の体重の変動や、糖尿病や心血管病変、血圧などの変化は注意深く、経過を追って観察し、悪化が無いかどうかを判断していかなければなりません。私たちのクリニックでは管理栄養士が治療に加わり必要なアドバイスを行っています。
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