2020年10月8日
喘息は毎日の食生活と深く関わっています。アレルギーの原因となるような食べ物は避けること、また、逆流性食道炎の原因となるような刺激物の摂取や、夜、遅く食べるような不規則な食生活も問題です。肥満は喘息を悪化させる原因となるので糖分の多い食べ物は避けること、などです。これは、私たちが診ている喘息の患者さん方に通常、注意している事柄です。
ところで、「喘息に良い食べ物は何ですか?」その問に答えてくれるのがここで紹介する論文です。
繊維を多く含む食事が、喘息の治療ともなりうるという論文[1]です。
Q.背景となる問題点は?
・喘息は、慢性の炎症性疾患であり、その総数は世界中で約3億3,900万人といわれているほど患者数が多い。
・米国では人口の8.3%に相当し、しかも過去60年間に増加し続けている疾患である。
・典型的な喘息はスパイロメトリーと呼ばれる肺機能検査で、気管支の中を流れる空気が流れにくくなる気流閉塞があり、それも固定的ではなく悪化、改善をくり返し、しばしば、咳と痰をともなう疾患である。
・喘息は、悪化すれば救急外来を受診するような状態となり、さらに合併症がある場合には喘息の悪化で一緒に悪化することがあり深刻な状態となる。その結果、医療費がかさみ、患者や家族の生活の質(QOL)は低下する。
Q.喘息悪化に食べ物が関係する?
・米国で喘息が増加している背景には、西洋型食事に傾き過ぎているからだという。その内容は、高度にプロセスされた食事、多くの脂肪や糖を含み、アンチオキシダントや繊維成分が少ないことである。
・これに対する賢明型食事とは、果物、野菜の摂取量が多く、アンチオキシダントを含み、繊維が多く、乳製品で脂肪分が少ないものとされている。
・従来の研究では、二つの考え方が対立している。
1)西洋型食事が喘息、COPDにどのように影響するかを調査したが喘息と食事内容には関係がなかった。
2)他方、西洋型食事はCOPDの発症と関係し、咳、痰、肺機能の低下と関係していた。
・先に述べた賢明型食事の摂取は、COPDの発症を抑え、咳を止め、肺機能低下を防ぐことが判明している。
Q.繊維を含む食べ物が健康に良い?
・賢明型食事は腸の健康を保つ、肥満のリスクを低下、心血管疾患、冠動脈疾患、癌、脳卒中、糖尿病の発症を防ぐ。死亡原因として癌、心疾患、呼吸器疾患を改善する。
・西洋型食事を摂っている男性3%、女性6%では繊維は1000kcalあたり14ℊ以上の繊維成分を摂っているに過ぎない。
Q.本研究はどのような研究方法か?
・National Health and Nutrition Examination Survey (NHANES) として実施。
・NHANESは、米国CDC(疾病予防管理センター)が1971年より開始した国民調査。1999年より毎年実施。
・成人、小児を対象とした健康状態、栄養調査。
・面接と診察、血液生化学検査、歯科所見、生理学的検査を含む。わが国の健診と似ている。
・面接は地域格差、社会経済格差、食事内容の調査。
・調査の目的は、健康増進、疾病予防。
・データは疫学的な解析、科学に基づく健康関連研究、健康政策に生かす。
Q.本研究の方法?
・米国CDCが実施した栄養調査NHANES、2007-2012年。20歳から79歳までの成人、計16,974人を対象。食事摂取と繊維成分の摂取、喫煙などを調査。喘息の有無について調べた。
・データ基準を満たす13,147人について喘息あり、喘鳴あり、咳あり、痰ありの4群に分類した。
・繊維成分の摂取量により以下の4群に分類した。
Q1: 10.46 g/day
Q2: 10.5–15 g/day
Q3: 15.1–21.2g/day
Q4: 21.2 g/day
Q.調査結果は?
・調査対象者の平均年齢は45.6歳。男性 49.2%, 女性50.8%。BMI(body mass index; 体重kg/ 身長㎡)の平均値は28.8kg/㎡
・最も繊維成分を多く摂取しているQ4群と比較した。
・喘鳴 OR, 1.3(95% CI, 1.0–1.6)P = 0.018
・喀痰 OR, 1.4(95% CI,1.1–2.0)P = 0.021
Q.炎症の指標 CRPとの関係は?
出典:Saeed MA. et al. Association of dietary fiber on asthma,respiratory symptoms, and inflammation in the adult National Health and Nutrition Examination
survey population.
Ann Am Thorac Soc Vol 17, No 9, pp 1062–1068, Sep 2020
DOI: 10.1513/AnnalsATS.201910-776OCより一部改変
年齢、性、喫煙条件、経済状態、総カロリー摂取量を一致させCRP値を比較した。
最も繊維成分を多く摂取している第4群と比較した。
Q.何が判明したか?
・喘息では繊維成分の摂取量が多いほど喘鳴、咳、痰が少ない。
・さらに炎症の指標であるCRP値が低い。
・1日の繊維成分の摂取量として勧告されている20-30gを摂取している人はわずか30%に過ぎなかった。
・繊維成分を多く摂っている人では喘息の比率が少なかった。
・喘息の悪化症状は、咳、痰、喘鳴であり、繊維成分を多くとっている人たちでは頻度が少ない。従って、増悪がすくないのではないかと推定した。
・シンガポールに住む中国人、63,257人を対象とした先行研究でも果物から多量の線維成分を摂取し、非でんぷん性の多糖類を摂取している人では咳、痰が少ないという。
Q.なぜ繊維成分の摂取が良いのか?
・繊維成分の摂取➡腸内細菌(腸内ミクロビオータ)により線維が発酵することにより循環している短鎖脂肪酸が増加する。これにより肺内に加えられた炎症性刺激が抑制されるという報告がある。
Q.繊維成分を多く含む食事と喘息の関係は?
・成人の喘息では炎症反応を抑え、咳、痰、喘鳴を改善する。
・特に成人女性の喘息に効果的であると推定される。ただし、効果に人種差がある可能性がある。
・米国では成人で1日当たり20-30gの可溶性および不溶性の線維摂取が勧められている。
この論文と同じ時期に発表されたScienceの論文によれば[2],人体内には数百兆の微生物が存在し、それらは宿主機能の調節に多大な影響を与えていると説明しています。これらの微生物の多くは胃腸管に存在し、すべての身体系全体の正常な生理機能に影響を与えることが報告されています。腸内細菌や他の条件の微妙なバランスの混乱は、多くの疾患状態、―神経学的障害、心血管疾患、胃腸障害、さらには癌に関連していると云われています。
胃腸の病気が全身の病気の発症に関係することはギリシア時代にヒポクラテスにより指摘されていたと云われますが最近になり治療の一環として注目されています。サプリメントでは多くが知られていますが米国では、現在、理論的な効果が判明して治療薬として認められているものはないということです[2]。
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