2020年12月21日
New England Journal of Medicine は、米国だけでなく、全世界の医療を牽引している医学週刊雑誌です。発刊以来、200年余りの歴史があります。
最新号に新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の重症化した場合の治療の方針がまとめとして掲載されています。冒頭に現在までに発表されている各学会などのガイドラインを元に解説すると断り、具体例を挙げて、治療対応の方法が述べられています。主として医療者への教育目的という視点での解説です。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)を始め、臨床呼吸器学のオピニオン・リーダの一人であるコーネル大学のFernando J. Martinezらが執筆しています。
最初に提示されている症例は、以下のような経過です。
「50歳、男性。1週間前より、発熱、咳、倦怠感あり、2日前より呼吸困難が悪化して緊急入院。39.5℃の高熱、脈拍は110/分と上昇。呼吸数は24/分。血圧は130/60。酸素飽和度は空気呼吸状態で87%と低下。血液の白血球数は、7300とやや増加し、リンパ球数が減少。胸部レントゲン写真では、両側肺の浸潤陰影で肺炎に相当、鼻粘膜の擦過により新型コロナウィルス(SARS-CoV-2) が検出され、COVID-19と診断された。」
この患者さんを例に詳しく対応策が解説されます。
治療手技では、集中治療室での人工呼吸器の具体的な設定や注意点が詳しく述べられていますがここでは、割愛します。
Q.重症COVID-19 の初期症状とは何か?
・初期症状は、多くは咳、発熱、倦怠感、頭痛、筋肉痛、下痢である。重症化は、初期症状から1週間目ころに始まる。下痢は、重症例の症状の中で最も頻度が高い。これに低酸素血症が合併する
(図)
出典:Berlin, D., Gulick, Martinez, FJ. Severe Covid-19. N Engl J Med 2020より一部改変
Q.重症化による急性呼吸窮迫症候群(ARDS)とは何か?
・ARDSの定義は、レントゲン写真で急性に起る両側肺の浸潤影、重症の低酸素血症、心不全や水分の過剰投与で生じたのではない肺水腫(肺組織が水分過剰となる)の所見。
・重症COVID-19では、血液中のリンパ球数が減少する。
・場合によっては、血栓形成の合併症があり、また、中枢神経や末梢神経症状がある。
・重症例では、急性腎障害、肝障害、心筋障害が起こり、不整脈、横紋筋融解症、血栓症、ショック状態を起こす。
・臨床および検査データでは、発熱、炎症サイン、血小板減少、フェリチン高値、CRP値高値、インターロイキン6高値が見られる。
Q.成人の重症COVID-19の診断は?
・呼吸困難、呼吸数が30/分以上、酸素飽和度が93%以下、酸素吸入下状態での動脈血酸素が300mmHg 以下 (PaO2:FIO2=動脈血酸素分圧と吸入している酸素濃度の比)。
胸部レントゲン写真で50%以上の浸潤影が見られる。
Q.クラスターでの問題点?
・クラスターでの重症者:81%は軽症、14%は重症。5%は最重症。最重症群での死亡率は49%。
・健康人ではどの年齢であっても重症化の可能性がある。高齢化が、最重症、死亡のリスクファクターである。年齢と共にリスクが上昇する。
・慢性疾患がある場合にはリスクが高くなる。これらには、心血管病変、糖尿病、免疫低下状態、肥満がある。
・女性より男性が重症化しやすい。
・人種差に加え、社会的貧困層のリスクが高い。
・狭い地域で急に感染患者が急増する場合には、病床が不足、医療スタッフ不足、人工呼吸器や腎透析器材の不足で医療崩壊を起こす。
Q.初期段階と重症段階での対応策は?
・初期段階:注意深いモニタリング体制の整備が重要。厳密な感染予防対策が必要。軽症感染患者にサージカルマスクを必ずさせる。
・重症化とともに集中治療室での管理となり、患者、家族を入れての話し合いができなくなる。終末期医療のゴールは早い段階ですすめておくことが望ましい。
Q.治療はどうするか?
・人工呼吸器、酸素吸入が必要な6,400人以上の入院患者の解析で、デキサメサゾンが30日目死亡率を17%減少させた。デキサメサゾン以外のステロイド投与の効果が検証されている。
・重症例1,000人以上の解析でレムデシビルの改善効果があった。最も効果が認められたのは酸素吸入必要、人工呼吸器装着なし、のレベルであり、臨床治験では29日目死亡率はレムデシビル群が11.4%に対し、偽薬群は15.2% (95%信頼区間、0.52-1.03)。これらのデータよりFDAは、2020年10月に入院患者への投薬を許可した。しかし、多数例による国際的な無作為治験ではレムデシビル投与は入院中の死亡率を減少させなかった。
・さらにレムデシビルとデキサメサゾンの組み合わせ投与の無作為治験でも有用性は証明されなかった。
・重症例ではインターロイキン6は重症例の進行予防、死亡減少効果は証明されなかった。
Q.治療薬の情報は?
・多くの薬物で治験研究が進められているが有効性が証明されたものはない。
Q.治療ガイドラインは?
・重症例の治療に関するガイドラインは、現在、4つの組織から報告されている。
American Thoracic Society, Infectious Diseases Society of America, National Institutes of Health, Surviving Sepsis Campaignである。
Q.鍵となる臨床的問題点は?
・重症COVID-19でARDSを伴う重症化は症状発現から約1週間目である。
・重症例では気管内挿管をすべきかどうかが治療の基本点である。
・挿管後の人工呼吸器の設定条件は、送気圧を上げ過ぎ状態とならないよう一定条件で行う。
・重症患者で、高度の低酸素血症がある場合には仰臥位ではなくて腹臥位に患者をおく方が良い。これは重症のARDSの場合に集中治療室で実施されている治療法である。
・重症例の主な合併症は血栓形成と腎不全である。
・人工呼吸器、酸素吸入が必要な重症例では、デキサメサゾンが有効である。
・レムデシビルは入院中患者への使用がFDAから認められた。しかし、データはなお不十分であることを知らせておくべきである。
Q. COVID-19の治療薬の現状は?
抗ウィルス薬
ハイドロキシクロロキン:入院患者には効果なし。
ロピナビル、リトナビル:入院患者には効果なし。
レムデシビル:無作為試験で入院患者で早期回復を促進。大規模国際治験で死亡率減少なし。
抗体薬
回復者からの血漿:少数例で効果あり。無作為試験で効果証明されず。
モノクロナル抗体:少数例の無作為試験でウィルス量が減少した。
免疫関連の薬剤
BTK 阻害薬:臨床治験が進行中。
デキサメサゾン:酸素吸入必要の重症入院患者で死亡率減少。
インターロイキン1阻害薬:臨床治験が進行中。
インターロイキン6阻害薬:少数例治験で有効性証明されず。治験進行中。
JAK 阻害薬:臨床治験進行中。
現在までに判明している治療薬の有効性は厳しいものがあります。最重症で、集中治療室管理でも死亡率は極めて高いのが現状です。
ワクチン接種が、もっとも期待できそう、と言えます。
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