2021年2月4日
新型コロナウィルス感染(COVID-19)がパンデミックとなってきた初期のころ、他の症状はないのに嗅覚障害や、味覚障害があることが問題となりました。
研究者たちは、味覚障害があり辛味など化学的刺激によっても感知することができない状態を化学物質に対する反応性低下症(chemesthesis)と呼び注目しています。報告では、回復が早い人と感染後1年で回復していない人もいることが分かっています。ここで紹介する論文はCOVID-19における嗅覚、味覚障害に関するものです[1]。
Q.COVID-19の嗅覚障害の実態は?
・2020年6月発表のデータでは、COVID-19 感染者、8,438人のうち、41%に嗅覚障害があった。
・同年8月、イラン、基礎科学研究所、Moein STらの報告では、COVID-19 の患者100人に臭い識別テストを実施。参加者の96%に何らかの嗅覚機能障害があった。18%は完全な嗅覚喪失(無嗅覚症)であった。患者の調査では通常、嗅覚が急に失われることが特徴である。
・他のカゼウィルスの感染で起こる鼻づまりとは全く異なっている。
・嗅覚や味覚の自己申告による変化は、受診や、他の指標よりも感染拡大のより良い指標だった。嗅覚喪失はCOVID-19の診断テストとして利用されるべきであるという。
Q.感染でなぜ嗅覚障害が起こるか?
・コロナウィルスが鼻の神経単位(ニューロン)をサポートする細胞に感染すると嗅覚障害が起こる。
・当初は、脳の嗅球に信号を送る匂い感知ニューロンがウィルス感染していること、したがってウイルスが脳に感染することが懸念されていた。しかし、COVID-19感染死亡者の病理学的な研究からウイルスが脳に到達することはめったにない、と報告されている。
・ハーバード大学医学部の神経生物学者であるDatta SRのチームでは、鼻の感覚ニューロンをサポートする細胞(sustentacular cell;支持細胞として知られている)がウィルスに感染していることを発見した。Dattaらは、SARS-CoV-2が細胞の表面にあるACE2と呼ばれる受容体を標的として攻撃するため、支持細胞に焦点を合わせた。
➡コロナウィルスが支持細胞に感染し、ニューロンを脆弱な状態とし、栄養物質を奪うことを示唆している。
・イタリアの研究グループは、香りと味の障害は、インターロイキン6と呼ばれる炎症シグナル分子の血中濃度の増加と同時に起こることを報告した。また、解剖例の検討では、COVID-19に感染した人の嗅球に、血管の漏出などの炎症所見が見つかった。
Q.感染と味覚障害の関係は?
・味覚障害とコロナウィルスとの関連についてはほとんど不明。
・味覚と反応低下症は、嗅覚とは全く異なる反応である。味覚と化学反応は匂いとは異なる感覚であるが、すべてが組み合わさり食べ物や飲み物の味を人間に伝える。
・味覚は主に舌の味覚受容体に依存しているが、化学反応は、他のメカニズムの中でもとりわけ感覚神経のイオンチャンネルに依存している。COVID-19におけるそれら反応の変化は不明である。
Q.嗅覚障害はどのくらい早くもどるか?
・大部分で、嗅覚、味覚、化学感覚は数週以内に回復する。
・嗅覚機能障害のあるCOVID-19患者の72%、味覚機能障害ありの84%は1か月後に嗅覚が回復した。
・Hopkins C.らは、202人の患者を1か月間追跡し、49%が完全に回復したと報告。
さらに41%が改善。しかし、中には、すぐに戻らず長期間にわたりゆっくり回復する人たちがいた。
Q.回復過程の嗅覚とは?
・嗅覚の回復時には、健康な時と異なる不快な匂いとなることがある。Parosmia(刺激性異臭症)と呼ばれる現象である。「すべてが悪臭」と言われ、その影響は数か月間続く可能性がある。これは嗅覚ニューロンが回復するにつれ再配線が起っている結果かも知れないという(Hopkins)。
・回復しない場合には、コロナウィルス感染が嗅覚ニューロンを殺した可能性ある(Hopkins )。
Q.嗅覚の異常がもたらす危険性とは?
・食中毒や火事などの危険に対し、無防備となる。
・無嗅覚症の人は、なじみ育った食べ物の味や煙を検出することができない。2014年発表の研究では、無嗅覚症の人は嗅覚喪失のない人に比べて、不健康な食べ物を食べる危険な出来事を経験する可能性は2倍に増加するという。
・大部分の人は匂いを失うまで、人生における匂いの重要性を認識していない。
・「生まれたばかり赤ちゃんの匂い」を介して子供とつながることができなかった場合に母親は喪失感がある。嗅覚機能障害はうつ病と関連しているという。
Q.嗅覚回復の治療法は?
・匂いのトレーニングが勧められる。処方された匂いを定期的に嗅いで再学習する。
・嗅覚喪失が主に鼻細胞の炎症に起因する可能性がある場合、予備的な観察研究ではステロイドが効果的だった。
COVID-19は、ワクチンによる予防策や、急性期の治療に集中している現状があります。他方で、多くの回復者がありますが、心因的な面も含めて後遺症に悩んでいることが推定されます。アフター・コロナのフォロアップ、リハビリテーションの態勢を早期に整備していく必要があります。
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