2021年5月17日
新型コロナウィルスワクチンの接種が全国で、急ピッチで進められています。
多くの患者さんから、相談を受けるのは早くうちたいが過敏症(副反応)が心配、基礎疾患が危険とならないか、という質問です。
厚労省の有識者検討会は、ワクチン接種後、新たに20~90歳代の男女20人が死亡したと発表しました。接種との因果関係は、9人を「評価できない」、11人を「評価中」と発表し、現時点で接種に対する重大な懸念はないと結論しています。現在までに約438万回の接種が行われており、死亡者の累計は39人となりました。5月2日までに国際基準にもとづくアナフィラキシーと判断されたケースは、計107件。約382万回の接種が行われており、接種10万回あたりの発生頻度は約2.8回となっています(読売新聞夕刊、令和3年5月13日)。
ワクチンは、アデノウィルス・ベクターを利用するものとmRNAを利用するもの2大別されます。前者の代表は、英国、アストラゼネカ社製であり、5月20日にわが国で受け入れを承認するかどうかが判断される予定です(読売新聞、令和3年5月16日)。
米国アレルギー学会は、わが国でも使用されているmRNAを利用した2種類のワクチン(Pfizer-BioNTech mRNA COVID-19 vaccineおよびModerna mRNA COVID-19 vaccine)についての注意点、過敏症(アナフィラキシー)の予防と治療法を専門医向けに解説しています[1] 。
ほぼ同じ、内容の管理・診断・治療法をわが国のアレルギー学会でも発表しています[2]。
ここでは、米国で発表している注意点[1]を中心に解説します。特に断らない限り以下でいうワクチンとはファイザー製(Pfizer-BioNTech mRNA COVID-19 vaccine)およびモデルナ製(Moderna mRNA COVID-19 vaccine)を指します。
Q. ワクチン接種による有効性は?
・ファイザー・ワクチンは、1回目の接種日を0日、2回目を21日とすると、2回目接種後、7日目でのCOVID-19の予防に対する有効性は95%である。これは年齢、人種、民族に無関係である。
・モデルナ・ワクチンは、0日および28日目の接種であるが2回目接種後、14日目で有効性は94%である。
Q. 副反応の頻度は?
・ファイザー製の新型コロナウィルスワクチンであるコミナティR筋注では100万回あたり11.1人の過敏症が起る[2]。
・ファイザー製では2回目の副反応は2%以下である。しかし、2回目では、倦怠感は3.8%、頭痛は2.0%にみられた[1]。
・ファイザー製では190万人に接種し、175人に重症アレルギー反応がみられた。うち21人に過敏症(アナフィラキシー反応)。
・現在、ワクチンは16歳以上に接種している。
・治験段階ではワクチン接種後の過敏症は0.63%であり、一方、偽薬投与群では0.51%であった。
Q. 一般的に副反応に関係する添加物の成分とは何か?
・これまで他の疾患で使用されてきたワクチンは極めて多いが、ワクチンによる副反応の頻度は、一般的に100万人あたり1.31回とされている。
・抗原となるワクチン接種後に生ずる過敏症の機序は不明であるが一般的に、注射の主成分ではなく添加物によるものが強い免疫反応を起こす。
・ワクチンの添加物には、卵白、ゼラチン、フォルムアルデヒド、チメロサール、ネオマイシン、PEG(ポリエチレングリコール)、ポリソルベートなどがある。
・添加物を必要とする理由は、強い免疫反応を発揮させる、輸送中に薬物の安定性を維持する、保存中に品質の低下を起こさない、ことを目的としている。
・アデノウィルス・ベクターを利用するアストラゼネカ製、ジョンソン・エンド・ジョンソン製はPEGを含まないがポリソルベート80を含む。
・PEGは米国FDAが許可している多くの薬剤に含有されている。スキンクリームにも含まれている。経口服薬ではPEGは吸収されないので危険はない。また、PEGの全てが危険というわけでなく分子量400以下が危険であると云われる。
・ワクチン以外でもPEGを含む薬剤は多いが、筋注より静注薬の危険が高い。
・理論的にはPEGの皮内反応を行うことにより危険性を予知することが可能である。
Q. ワクチン接種に伴う副反応と誤解される問題点は?
・ワクチン接種後に低血圧、失神発作を起こすことがあるが多くは、血管迷走神経反射(vasovagal reaction)と呼ばれるものであり、アナフィラキシーとは区別される。
・パニックや不安反応としての息切れ、顔面紅潮、頻脈、まぶしさなどが起ることがあるがこれは過敏症とは異なる。また、稀に、喉頭痙攣により呼吸困難が生ずることがあるがこれもアナフィラキシーとは区別されている。
Q. アナフィラキシーを予見するための問診とは?
以下の4つに該当する場合があるか?
1. ワクチン以外の注射で過去にアレルギー反応を起こしたことがあるか?
2. 過去にワクチン接種でアレルギー反応を起こしたことがあるか?
3. 食物やラテックスなどでアレルギー反応を起こしたことがあるか?
4. PEG、ポリソルベート類などを含む注射薬で副反応の既往があるか?
1~4に該当せず➡低リスクであり接種後、15分間の経過観察でよい。
1、2、あるいは3が該当➡30分間の経過観察を行う。
1あるいは2が該当➡接種の安全性を確認されるべきであり、特にPEG、ポリソルベート、ポリキシール35などの皮内反応による確認が必要である。
4が該当する場合➡ハイ・リスクに相当する。
ポリソルベート20、80およびPEGの皮内反応陽性の場合には、ファイザー製、モデルナ製は使用しない。
PEGの皮内反応が陰性の場合、両社の製品の接種は可能であるが接種後、30分間の観察を行う。
・米国CDCの報告では、重症アレルギー反応と報告されている大多数(175例中147例;75-90%)はその後の調査では重症アレルギー反応ではないことが確認された。
Q. PEGの皮内反応が陽性の人の接種はどうするか?
・接種の危険があるため分注することが考えられる。具体的には、全注射液の10~25%を皮内投与➡30分後、安全を確認後に残りの75~90%を投与する方法が考えられるがファイザー製の全投与量が0.3mlであるため現実には難しい。
Q. アナフィラキシーの診断をどうするか?
投与後、多くは30分間以内、最重症例では15分間以内に以下の症状のどれかがが観察される。
・意識障害
・呼吸:遅くなる
・皮膚:紅潮、蒼白
・血圧:一過性の下降
・消化器症状:吐き気、嘔吐
なお、立ったままワクチン接種を行ってはならない。必ず座位とすること。
Q. アナフィラキシーと診断された場合の対応?
・仰臥位。両足を頭部よりも高くし、脳に行く血流を確保する。
・衣服を緩める。部屋の換気に問題がある場合には換気を良くする。
・エピネフリンの少量を皮下注射する。エピペンが便利であるので接種場所に準備をしておく。
・回復しても医療者は、そばを離れないようにする。
・軽症と判断された場合でも必ずフォロアップを継続する。
ワクチンの接種の目的は、あくまでも新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の予防が目的であり、原則的に接種の時点では健康人か、慢性の病気があっても安定している人を対象としています。ワクチン接種による副反応で重症となり生命危機の状態は絶対にあってはならないことですが、ごく稀ですが予見が難しく、避けられない事故となっているようです。安心して接種していただくためには過去の副反応が起こった状態を少なくとも医療者向けには詳しく開示することが、相談を受ける立場の医療者としての強い希望です。
米国では全人口の36%が接種を終えた段階ですがバイデン大統領もマスクも不要となったと報道されています(令和3年5月16日、読売新聞)。全人口の3割以上まで接種が進めばかなりそれに近い状態になると思われます。新患者数を減少させ、流行を抑えるには、30歳から50歳までの人たちに集中的に接種するのが良く、死亡率を減らすには高齢者を先に接種する方がよいと主張する疫学研究者がいますが、わが国を始め多くの国々では高齢者およびハイリスクの慢性疾患を持つ人たちを最初に選択しています。これは、近代の医療倫理観を反映していると深く首肯できますが、若い世代にはとにかく順番に接種が終了するまで、流行をこれ以上、拡散しないよう最大限の協力をお願いしたいと思います。
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