2021年5月18日
呼吸リハビリテーションは、COPD (慢性閉塞性肺疾患)、気管支拡張症、気管支喘息など慢性の呼吸器疾患のほぼ全てに有効な治療法として知られています。しかし、実際に必要な患者さんが呼吸リハビリテーションを受けている人は、もっとも進んでいると云われる、米国、カナダですら5%以下です。
さらにコロナ禍の中で、従来行ってきたような病院の訓練室で行ってきた呼吸リハビリは、欧米でもわが国でも殆どが閉鎖状態にあります。呼吸リハビリが必要な患者さんは、高齢者であることに加えて呼吸器疾患以外にも重い基礎疾患があり新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のハイ・リスクと言われる人たちだからです。
欧州・米国胸部学会は、呼吸リハビリを定義から見直し、直面する諸問題の解決策を考えるために、ワークショップを開催し、問題点を整頓しました[1]。ここではその概要を紹介します。
Q. いつ、どこで、どのような人たちが集まったか?
・米国、テキサス州ダラス。2019年5月17日、米国胸部学会の会期中に開催した。
・患者代表を含む、米、欧州、カナダの呼吸リハビリを専門とする医師、プライマリケア医、看護師、理学療法士、呼吸療法士、計17名。最初に7名の委員により、問題点について講演が行われた。100人の専門家のオンライン参加があった。
Q. ワークショップの目的は?
1.呼吸リハビリに必要な項目のコンセンサス作り。
2.保険診療を行うための備え。
3.呼吸リハビリに必要な要件の整頓。
Q. 従来型呼吸リハビリの問題点は?
・一定の場所での監視下で運動トレーニング、教育、自己管理の方法を教える。
・入院あるいは外来。週2回で8週間以上、継続するものとする。
➡この条件下での改善エビデンスはある
➡その主なものは、入院回数の減少、生存率の向上であった。
その他の項目では、呼吸困難の改善、QOLの向上、運動耐容能の改善。COPDでは入院回数の減少が呼吸リハビリの効果として検証されている。
Q. 問題点は何か?
・米国、カナダでは必要者の5%以下に実施という現状がある。
・コロナ渦で世界中の呼吸リハビリが閉鎖状態。
・それを補う方法として遠隔医療によるリハビリテーション、在宅リハビリが実施されている。
・しかし、モデルとなる適切な呼吸リハビリはまだみられない。さらに、関与する医療者をどのように継続的に教育していくか、が問題である。
Q. 欧州呼吸器学会・米国胸部学会2013年における呼吸リハビリテーションの定義とは?
現在、もとになっている呼吸リハビリの定義は以下の内容である。
「患者に対し、評価に基づき包括的な介入方法で、運動・教育・行動変容だけでなく身体的・心理的な改善を目的とし、慢性呼吸器疾患を有する人たちに長く健康を強調した行動を推進させることである」
Q. 現在の呼吸リハビリテーションの問題点は何か?
・2013年の両学会による定義が現時点においても適切であることを再確認した。
・現在、診療現場で進行中の呼吸リハビリに関する臨床試験の結果が妥当であるかどうかを検証する必要がある。
・呼吸リハビリテーションには、患者の評価、プログラムの構成、その実施方法、内容が妥当か、などリハビリ・プログラムで重要な項目は13ある。
・実施にあたっては実施可能な地域の医療体制と個々の患者のニーズ、目標、好みなどを考慮する必要がある。
・将来的には、患者自身が選択できるプログラムを準備しておくなど個別化医療の実施が必要である。
・包括的な患者評価にもとづき個別化したプログラムの実践が必要である。
・リハビリの進行状態に合わせた、記録と定期的な臨床検査による評価が必要である。
・呼吸リハビリが必要にも拘わらず実施している人はカナダでも数%程度である。プライマリケア医が呼吸リハビリにほとんど関心がないことも問題である。
・呼吸リハビリの継続実施の妨げとなるのが通院手段、医療費負担、うつ病など他の疾患による影響が大きい。
Q. なぜ、現在の呼吸リハビリの改善、改革が必要か?
・アクセスの改善、継続実施を最重要項目としている。リモート配信モデルはこれを補う。
・長期旅行中のリハビリの継続体制。
・患者中心の医療、個別化医療の原則をどのように実現していくか。
Q. 具体的な手法は?
・電話応対型。
・アプリを利用したリハビリの提供。
・ウェアラブルとリモートモニタリングの組み合わせ。
注:ウェアラブルコンピュータ(英: wearable computer)とは、装着もしくは着用出来るコンピュータのこと。ラップトップやスマートフォンなど単に持ち運べるコンピュータとは異なり、主に衣服状や腕時計状で身につけたまま使えるものを指す。 ウェアラブルデバイス、ウェアラブル端末、ウェアラブル、ウェアラブル製品と呼ぶこともある。腕時計型、眼鏡型、指輪型、靴型、懐中型、ペンダント型など様々なタイプのものがある。
・教育+呼吸リハビリ提供により行動変容を起こすこと。
・プログラムは病期、併存症、心理社会的特徴、デジタルリテラシー、患者選択などの要因がある。
・チーム医療では電話会議の利用がある。
・2015年、米国胸部学会、欧州呼吸器病学会の方針声明では、呼吸リハビリテーションを提供する代替モデルの臨床研究の推進が発表された。
➡これを受けて多くの臨床研究が開始され、報告された。運動トレーニング、教育、行動変化が含まれていることが要件で呼吸リハビリの定義に合致するものとなっていなければならない。
・一部ではあるが包括的なプログラムとして実施されているものがある。
・インターネットや専門機器(例えば、パルスオキシメーター、エアロバイクの利用)を利用するものが良い。
・電話診療も効率的である。
・ウェアラブル機器や歩数計などの導入は効果的であるがそれだけを利用するものは呼吸リハビリの定義に当てはまらないので厳密に区別する必要がある。
・COPDの多くは在宅プログラムを希望しており、理学療法士との定期的な(毎週など)の電話連絡、さらに家族や友人を入れたプログラムを継続させる方法もある。
・運動療法では、内容の多様性が必要である。
・遠隔リハビリテーションサービスに関する新技術の利用や、バイオセンサーにより自己監視したいという患者希望がある。
Q. 呼吸リハビリテーションの必要項目とは?
図1は、呼吸リハビリに必要な項目を図示したものである。
出典:Holland AE. et al. Ann Am Thorac Soc 2021; 18: e12-e29.より一部改変
Q. 呼吸リハビリの必須コンポーネントは何か?
デルファイという統計手法を用いて参加者の意見を総合した呼吸リハビリの望ましいコンポーネントの要約は以下の通りである。
・栄養士と作業療法士による栄養状態と作業状態の包括的な評価は現行のプログラムの中で遂行できる。
・呼吸リハビリの維持の運動療法は、毎月1回あるいはそれ以下ではほとんどメリットがない。これに対し、メンテナンス運動トレーニングでは脱落が多くなる。
・北米では栄養士、呼吸療法士、呼吸器内科医師で生理学的運動素養のある人での組み合わせ。欧州では作業療法士、ソーシャルケースワーカー、呼吸器内科医師で生理学的運動素養のある人での組み合わせが多い。
・栄養評価は、呼吸リハビリテーションでは不可欠の要件であるとされてきた。同様に不安、鬱の評価は必要であるが具体的なプログラムに取り入れられているものはほとんどない。
Q. 呼吸リハプログラムの中に取り入れられるべき評価項目は何か?
・運動能力、QOL, 呼吸困難、栄養状態、就業状態。
Q. 今後の研究方向は?
・どのような内容の呼吸リハビリがその患者に最も合致しているかを検証する生理学的検査法を含むバイオマーカーを開発する。
・呼吸リハビリを実施するために必要なケアの具体的な内容。
・呼吸リハを拒否あるいは脱落する患者に対する適したプログラム開発。
・増悪後に実施するリハビリの実施。
・メンテナンスのリハビリをどのように実施するか。
・アクセスを良くしてリハビリに参加をさせる。
・呼吸リハビリのノウハウはCOPDに関するものが多いが他の呼吸器疾患へ応用することが必要である。
・様々な形の呼吸リハプログラムができたときにその安全性を検証する必要がある。
・費用、有効性の評価する必要がある。
・低中所得国の呼吸リハをどのように促進していくか。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)を含め、慢性の呼吸器疾患のほぼ全てに呼吸リハビリテーションが必要ですが、残念ながら現在ではそのような治療内容になっていないことが多いようです。
欧米でも呼吸リハビリの実施は数パーセント以下であり、わが国ではほとんど実施されていないのが実態です。このワークショップでも問題としているように、広く実施するためには保険診療の中でスペース、必要な医療人員を支える医療経済上での還付が問題です。これを受けるためには日常で実施している呼吸リハビリの質を高め、受けている患者さんの評価を高めることが必須の条件です。
今回、発表された呼吸リハビリの新しい方向性は、コロナ禍の中で次世代の呼吸リハビリをどのように立ち上げ、広げていくかについて提言しています。IT時代を迎え、呼吸リハビリの継続について強い変革が求められています。
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