2021年10月4日
喘息の治療に使われる薬の主力は、吸入ステロイド薬とβ2刺激薬の吸入薬です。二種の薬の合剤は、現在では多種の薬剤が臨床現場で使用されており、それぞれ、一長一短があります。病状などに応じて使い分けられています。
吸入薬と並行して使用される経口薬の一つがロイコトリエン(LT)受容体拮抗薬に分類される薬で例えば、オノンⓇ、シングレアⓇ、キプレスⓇという薬があります。
ロイコトリエン(LT)受容体拮抗薬は、喘息による気道の慢性炎症を抑える目的で使用されています。
ロイコトリエン(LT)受容体拮抗薬は、喘息以外の効果も判明してきていますが、機序の薬理学的作用が分かりにくいという難点があります。ここで紹介する論文[1]は、最近、New England Journal of Medicineに解説論文として掲載されたものですが問題点、作用と将来性を分かりやすく解説した論文です。要点を記します。
Q. 気道の慢性炎症とこれを治癒していく機序とは?
・感染、傷害、あるいは内因性刺激により気道に慢性炎症が生ずる。これは、生体の自然治癒反応としての重要な作用の一つである。
Q. 臓器の慢性炎症とは何か?
・炎症は、開始、進行、改善、元の組織に戻すという動的なプロセスである。
・急性炎症を引き起こすメデイエータ―とその機序は、明確に定義されており、これを治療する薬剤が抗炎症薬として知られる。
・炎症反応を抑える機序は、「信号」を抑えるだけでなく、特定の細胞を活性化させ、サイトカイン、ペプチド、特定の脂質メデイエータ―などの可溶性因子の生成にも関わっている。
・炎症が解消、改善されない場合の低レベルで緩やかに継続する炎症病変は、動脈硬化、発癌など多くの病的な状態を引き起こすことが知られている。
Q. 炎症の化学的プロセスとこれを変化させる物質は?
・炎症に伴う化学的刺激因子にはプロスタグランジンやロイコトリエンなどが知られている➡これらは炎症の進行に伴い血管透過性と白血球類の動員を促進する。
➡炎症反応が進行すると脂質に関係する伝達物質(メディエーター)が合わせて変化していく➡炎症に伴う、死にかけている細胞あるいは死んだ細胞の除去を進めるように作用する。こうして組織の再生と修復作業が同時に促進される➡このような反応を促進する「内因性脂質」は、「特殊な促進メディエーター」または、SPMと呼ばれる。
注)SMP= specialized proresolving mediatorsの略
➡SMPを合成して作成した薬剤を加えると炎症を抑え、生体の防御機能を強化するように作用することが判明した。
➡合成したSMPは、アテローム性動脈硬化症、慢性腎臓病、喘息など多種の病気の改善効果を示す。いくつかの急性、慢性炎症や糖尿病性腎症など臓器の線維化を起こす疾患の治療薬への応用が検討されている。
Q. 喘息の新しい治療薬の候補と作用機序とは?
・喘息は肺の慢性炎症である。アラキドン酸は、5-リポキシゲナーゼとロイコトリエンC4シンセターゼによりシステイニルロイコオリエンに変換される。これにより血管透過性と平滑筋収縮が亢進し、発作が起こる(図1)。この反応を利用して喘息の治療が行われるが薬理学的効果は必ずしも一定ではないので治療効果が一定しない。
図1:
・この不均一性に焦点をあてた研究が進んでいる。注目されているのは、ロイコトリエン誘発性血管透過性を抑制する効果を示すMCTRである。特に、MCTR1, MCTR2, MCTR3が注目されている。これらは、代謝脂質分析により健康な肺組織に含まれていることが明らかになっている。
注) MCTR= maresin conjugates in tissue regenerationの略
・喘息は気道収縮により引き起こされるがMCTR3がロイコトリエンDに大きく作用し、その収縮を改善する効果が判明。さらに、MCTR1, MCTR2, MCTR3の組み合わせによりロイコトリエンDによる気道収縮を改善することが判明した。すなわち、有力な治療薬となることが明らかになった。
・MCTR類は、炎症の改善を促し、気道の過敏性や、気道の粘膜を保護するように作用する。
・システイニルロイコトリエン受容体は、多くの細胞や組織に存在することが判明している。将来的には、動脈硬化性の心血管疾患、虚血性心疾患、糖尿病腎症など線維化の治療薬として使われる可能性がある。
喘息の治療は、GINAと呼ばれる診療のガイドライン[2]があり、多くはこれに従うことで奏功します。しかし、ときに治療が難しい場合があります。その理由は、喘息が型にはまった一つの典型的な疾患ではないこともありますが、薬剤がつねに一定の効果を示すのではない、ということもあります。ロイコトリエン(LT)受容体拮抗薬は、まさにそれに該当するものであり治療効果が一定でないことが難点でした。しかし、MCTRが製剤として併用できるようになれば一定の効果を期待できることになり大きな進歩になります。