2021年10月28日
喘息は小児、大人を通して最も頻度が高い慢性疾患であり、全世界で総数は、3億3,900万人、2016年度の調査では、米国人の8.3%, 成人では総数2,000万人、小児では総数600万人と言われています[1]。
コントロールの悪い喘息では、日々の生活が不自由となり、医療費など経済的負担も増します。喘息は小児期から始まることが多く、成人になったときにどのようになるのか、は重要な問題です。
ここで紹介する論文は、1993年に開始されたCAMP研究と呼ばれる喘息の治療薬剤の治験で、4.3カ年間の観察後、その後も経過をフォロアップし、さらに14年間、2013年に終了するまで思春期、青年期まで観察し得た貴重な臨床データです。妊娠期の喫煙習慣が子供の喘息に影響しているという貴重な指摘もあります。
査読を担当した編集者の意見も参考となります[2]。
Q. 研究方法は?
・CAMP(Childhood Asthma Management Program)研究は小児喘息管理プログラムとして発足した。比較的軽度の喘息に対し、吸入ステロイド薬のブデソニドまたはネドクロミルと必要に応じた短時間作用型気管支拡張薬の使用で比較した臨床治験である。これまでに、多くの関連論文を発表してきた。
・また、その後、成長とともに喘息症状が軽快していった場合には、投薬なし、として追跡調査は継続した。
・方法
開始時年齢は5~12歳、軽症喘息、682人。平均年齢8.7歳、男子59.8%, 親に喘息ありが43.1%
喘息緩解とは、喘息の治療歴なし。悪化なしの状態を指す。
間歇的な喘息とは、喘息症状はあるが短時間作用型気管支拡張薬使用なし、経口ステロイド使用や入院なしの状態。
Q. 本論文の特徴は?
・Izadiらは、CAMP治験参加者の青年期と若年成人期を比較して比較的軽度から重度の喘息への進展を予測する因子を決定した[1]。
・本研究の強みは、長期にわたる前向き試験であること、参加者の65%を追跡調査できたこと。
・青年期後期と成人期初期の患者のそれぞれ、12%と19%が重度の喘息に罹患していたが、その経過で一貫して重度であったのはわずか6%であった。
・重度の喘息になるかどうかの予測因子は、肺機能検査の1秒率、肺の成長が平均よりも低下と早期に低下傾向を示す場合および、妊娠中の母親の喫煙習慣、男性患者の場合。
・妊娠中の母親の喫煙習慣は、出生直後の肺機能の低下と関係しているだけでなく、その後、子供の喫煙習慣の開始や、職業性の環境物質に対して子供の脆弱さを増強させ、急速な肺機能低下を起こすことに関連している。
・これまでに発表されたデータおよび本研究のデータから小児期の喘息患者の5~10%が成人期で重度の喘息となる。
➡小児喘息の治療ガイドラインにこれらの点を重視して追記する必要がある。(現在は記載されていない)。
Q. この論文に対する編集者の評価は?
本論文を編集査読した担当者は、本論文を評価しつつ、注文も寄せている[2]。
・喘息は気道の慢性炎症であり、特にII型炎症が注目を集めている。II型炎症のマーカーとして好酸球数、総IgE、特異抗体、呼気NO濃度などがあり、必要に応じた検査が必要である。
・小児喘息の治療の主役は吸入ステロイド薬であるという位置づけは変わらないが、著者ら[1]が将来、抗体薬使用の可能性を指摘しているが、これには同調しない。なぜなら、抗体薬はいずれも高価であり、家族への経済負担が大きいことに加え、喘息の病態生理は気道炎症とこれに伴う気道の変形(リモデリング)であるが、小児喘息では気道の内径、長さなど気道の発育が問題となる。
・気道がどのように発育していくかの正確な機序は現在不明である。
・現在、行うべきこととして小児期の早い時期から肺機能検査を定期的に実施し、リスクが高い子供を抽出し、早い段階から注意を与える治療介入や薬物治療を開始するのがよい。
・肺の成長発育の障害、小児期の重症喘息は、いずれもCOPDの発症要因であることに注意が必要である。
・発育段階にある小児の肺を守るためには、大気汚染対策、受動喫煙および電子タバコなどの霧状物質、肥満の対策が必要である。
・子供の肺活量の30%は、親からの体質、遺伝に拠っている。リスクの高い子供に対する取り組みが必要である。
Q. まとめは?
小児喘息が成人になって緩解するのか、重症化するのか、について大まかな治療経過を示したのが図1である。
出典:Izadi N. et al. Factors associated with persistence of severe asthma from late: adolescence to early adulthoodより一部改変
喘息は乳幼児から始まり、老年期でも再発、あるいは悪化する慢性の病気です。
図1は、従来、考えられてきた経過に対し、大まかな数字を書き込むことができたことが成果です。肺は胎児期から思春期の終わりごろまで発育を続ける臓器です。胎児期の影響が喘息の悪化に影響するという、データは強い社会警告となっています。
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