2021年12月3日
間質性肺炎(ILD)、私たちが日常の診療でみている慢性呼吸器疾患の中では頻度の高い疾患です。原因が不明であることが多く、近年、抗線維化薬が使われるようになりましたが依然として治療が難しい疾患であることは変わりません。
特に階段を上るときなどに息切れなどの症状が強くなってきたときには、対応に苦慮します。ILDの他の症状に空咳があります。夜間に咳き込みが多くなり、消耗しきった表情の患者さんを診ることがあります。
ここで紹介する論文[1]は、ILDの患者さんに対し、特に夜間の酸素療法の必要性を詳しく論じたものです。昼間の酸素療法を論じた論文はかなりありますが、夜間に酸素療法の必要性を論じた論文は少数です。この論文は、これまで発表された関連論文を総括しています。
カナダとオーストラリアの研究者の共同研究です。
Q. 問題点は何か?
・ILDで夜間酸素療法が必要な場合の有病率、関連要因、重要性、役割は不明である。
Q. ILDの就寝中の問題点は?
・ILDは、軽症であっても低酸素血症を起こすことが多い。特に、仰臥位で寝ていると悪化し、睡眠中に換気ドライブが低下し、換気制限と肺胞でのガス交換障害により、夜間睡眠中に低酸素血症が悪化するリスクがある。
Q. 研究目的に合致する論文は?
本論文は、ILDにおける夜間低酸素血症に関するこれまでに報告された論文をまとめたものである。
・合計6,095編の論文のうち、英文発表は200論文だけが本研究の目的に合致。うち63編のうち53編が一次研究であり、10編は一次研究の追加報告であった。文献検索により53件の研究で18歳以上の患者を対象として研究論文のまとめ。(患者総数=2,590人)のメタ分析を実施。臨床的な特徴、治療面の問題を明らかにした論文は、最少人数が5~10人程度であった。
ほとんどの研究は横断的研究(n=45)。単一施設からの報告であり(n=33)、ランダム化比較試験は1編のみ。
診断に関わるもの53件(抄録のみは19編)、疫学は11編(抄録のみは5編)、リスク関係は41編(抄録のみ15編)、予後は6編(抄録のみ1編)、治療は2編(抄録のみは1編)。
Q. 夜間の低酸素血症とは?
・臨床的に重要な夜間低酸素血症のもっとも一般的な定義は、総睡眠時間の10%以上、オキシヘモグロビン飽和度は90%未満であり、これによるプールされた有病率は37%であった。ILDのサブタイプおよび併存するOSAに応じてプールされた有病率に有意差なし。
Q. 夜間低酸素血症の診断評価は?
・論文の大多数は、夜間低酸素血症の診断閾値を定義していない。
・一般的な基準は、TST90(総睡眠時間に対し酸素飽和度が90%以下となる時間の割合)が10%以上および酸素飽和度指数(ODI)である。
・他の基準はTSTが30%以上あるいは1以上のエピソード。あるいは5以上のエピソードで最低値のSpO2が85%以下。あるいはその両方。SpO2が、88%以下が5分以上+ODIが10以上、またはTST90が20%以上+ODIが10以上。
(注:ODI(oxygen desaturation index)とは検査1時間あたりの酸素飽和度(SpO2)低下(Desaturation event)出現回数で,1 回 1 回の無呼吸低呼吸のエピソードに伴う SpO2 の変化を直接にとらえようとするものである。検出条件は,直前値から閾値%以上低下し,120 秒以内に上昇に 転じ回復するもので,低下勾配が 1%/10 秒以上,回復 時間が 20 秒未満であることのすべてを満たすものとする)
Q. 臨床的に重要な夜間低酸素血症は?
・OSAが併存する場合を検討した論文はなし。定義に関係なく夜間低酸素血症ありの有病率は37%である。TST90を10%以上とすると有病率は40%。
Q. 夜間低酸素血症の問題点は?
・関連する因子は以下の通りである。
肺拡散能(DLCO)
心エコーによる肺高血圧症
TST90>10%と最大SpO2低下幅が、12カ月間内でのILD関連の肺高血圧の悪化に関連した➡ すなわち、低酸素血症が長く持続すると肺高血圧を悪化させる。
夜間の低酸素血症は日中の昼寝の回数と関係する。
夜間低酸素血症は病型の異なるILDとは無関係だった。
Q. 夜間低酸素血症の治療は?
ILDと夜間低酸素療法に対する酸素療法の効果については2編の論文がある。
1)2,240mの高地居住者19人のILDで、日中のPaO2が平均51mmHgの症例と健常者に対し、室内空気下の呼吸と酸素吸入1-3L/minの比較では、平均SpO2は有意に改善し、ILD群では睡眠中の脈拍数は減少し、健常者と同程度となった。しかし、睡眠パターンは酸素吸入下でも変化は見られなかった。
2)12人のILDで1カ月間のdouble blindの治験では、夜間2L/minの酸素療法では室内気吸入と比較して有意にTST90, ODI, AHI が改善した。しかし、睡眠パターン、睡眠の質、呼吸困難感、健康関連のQOL, 血清BNP には差がなかった。
・抗オキシダント性チオールは酸素群で上昇した。
Q.夜間低酸素血症の予後は?
・ILDにおける夜間低酸素血症がQOL(HRQoL)および症状に影響するかについては8編の研究がある。3編では、夜間低酸素血症とQOL改善の間には有意の相関があった。
・ILDにおける夜間低酸素血症と予後を調べた研究が6編ある。TST90は、特発性肺線維症(IPF)の進行と関係した。
・ODIと予後を検討した3編がある。ODI 3%、ODI4 %を用いた。ODI 4%と死亡率には有意の関係があったがODI3%との間には相関性なし。
・IPFで調査した研究では、SpO2最低値と最高値の差が生存期間と有意に相関した。
・35人のIPFを調査した研究では、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)と夜間の低酸素血症が共存する場合としてSpO2<88%が5分間以上の持続では、病気の進行と死亡率とに相関した。
・DLCO(肺拡散能)と心エコーで診断した肺高血圧症は夜間低酸素血症と関連していた。
・夜間の低酸素血症とILDサブタイプは一貫した関係なし。
・夜間の低酸素血症は生存期間と有意な関連を示した。
Q. 問題点は?
・ILDでは夜間の低酸素血症が普通に認められ、さらにこれが予後に関係することが判明した。
・夜間の低酸素血症は肺拡散能(DLCO)の低下と関係し肺高血圧の発症に有意に相関することが判明した。
・夜間の低酸素血症を巡っては、1)覚醒状態と睡眠中のSpO2の差異、2)低酸素イベントの回数、3)低酸素血症の持続時間、が問題となる。
・閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)はILDでは通常、認められる合併症として知られている。
・DLCOが夜間低酸素と密に関係しているがその理由は不明である。心エコーの肺高血圧は、夜間低酸素に関係するがこれは、肺動脈病変が関連していることを示唆する。
・夜間低酸素血症と肺高血圧の関係については十分に明らかになっていないが恐らく双方向で悪化の関係になっている。
・ILDに対する酸素療法の基準は各国で異なっている。一方、COPDに対しては、夜間低酸素血症はTST90>30%とされている。これが肺高血圧を起こす限界値となっている。
➡夜間酸素療法は、これらの点から有望な治療とみなされる。
在宅酸素療法は、米国では主にCOPDが原因の呼吸不全の長期治療として開始されたのが最初です。臨床治験は、英米がそれぞれ独立して実施し、生存率を高める効果があることが知られています。しかし、COPD以外の呼吸器疾患に対する在宅酸素療法の治療効果は、ほとんど知られていないのが実態です。ここで紹介した論文は、ILDに関して実施した夜間の酸素療法の研究論文を総括したものです。必ずしもデータが揃ったわけでもありませんが夜間酸素療法の実施が、低酸素血症を改善し、ILDの増悪を予防する効果と生存期間の延長を証明しえたことが成果といえます。
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