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No.224 喘息・COPD オーバーラップに起こる肺がんの合併

2022年1月5日


喘息とCOPD(慢性閉塞性肺疾患)は、咳が出たり、息切れがあったりする症状で類似点が多い病気です。しかし、病気の発症の仕方、経過には明確な相違点が知られています。


COPDでは経過中に肺がんの頻度が高いことが知られていますが、他方、喘息では健康人と比較してほとんど差がないことが知られています。


臨床現場では、喘息とCOPDの区別がつきにくいことがしばしばあります。その場合に折衷案として提案されたのがACOという病名です。ACOは「喘息・COPD オーバーラップ」の略です。ACOでは肺がんの合併が多いのか、健康人と変わらないのか、その疑問に答えたのがこの論文です[1]。




Q. 背景にある問題点は?


・COPDでは肺がんの合併が多い疾患であることが知られている。


・COPDは、気道の病変を中心とするグループと肺気腫の病変を中心とするグループに分けられる。肺がんは両方の病変に関係するリスク因子である。




Q. ACOの特徴と問題点は?


・ACOはCOPDと喘息の特徴を併せ持つ疾患である。


・ACOは、肺機能が急速に低下していく点でCOPDと類似しており、息切れ発作が頻回に起こる点は喘息に似ている。


・ACOはCOPD、喘息のどちらよりも健康状態に関連するQOLが低下している点が特徴的である。


・最近の研究では、ACOでは特有な生物学的な特徴があり、炎症性のマーカーに特徴があることが報告されており、COPD、喘息とは異なるというデータが集まってきている。


・しかし、肺がんのリスクに関しては不明である。




Q. どのように研究を行ったか?


・55歳~74歳で喫煙歴が30 pack-year以上、現喫煙者、あるいは15年以内までの喫煙歴を有する 計13,939人の米国人。


・以下の条件により5群に分類した。

COPDであるかどうかにより2分類した。すなわち、スパイロメトリーで1秒量/努力性肺活量比が0.7以上であるか、以下であるか。


・次いで前者を3グループに分類した。すなわち、健康な喫煙者群(n=6,447)、喘息を伴う喫煙者(n=281)、1秒量が健康人と比較して80%以下のCOPD予備軍(n=2,547)。


・後者を2グループに分類した。すなわち、COPD群(n=4,428)、ACO群(n=208)。


・参加者の全員で胸部CTを撮影して肺がんのスクリーニング検査を実施した。




Q. 結果は?


・1,000人年あたりの肺がん発生率は、ACO患者では13.2(95%信頼区間[CI]、8.1–21.5)。COPD患者では11.7(95%CI、10.5–13.1)、喘息喫煙者の1.8(95%CI、0.6–5.4)、COPD予備軍患者では7.7(95%CI、6.4–9.2)、および通常の健康喫煙者は4.1(95%CI、3.5–4.8)。

未調整の分析では、ACOの患者は、喘息の喫煙者では発生率比[IRR]、7.58(95%CI、2.21–26.02)、COPD予備軍患者ではIRR、1.72; 95%CI、 1.03–2.92)、および通常の健康喫煙者(IRR、3.23; 95%CI、1.93–5.40)。肺がんリスクは、ACO患者とCOPD患者の間で有意差はなし(IRR、1.14; 95%CI、0.69–1.88)。




Q. 考察は?


・ACOの患者は、COPDの患者と同様の肺がんの発生率を示し、喘息のみの患者よりも高くる。


・肺がんスクリーニングの潜在的な適応症を評価するとき、または肺結節の精密検査を評価するとき、ACOの患者が独立して肺がんのリスクが高いと見なすべきである。


・COPD患者において観察された好中球性の気道炎症作用の関与が疑われる。


・共通の病因は、COPDと肺がんとの関連と同様で、煙または他の吸入傷害への曝露が気道全体に共通の有害な分子反応を誘発する可能性がある。


・反応性オキシダント類によるDNA損傷および細胞以外の成分であるマトリックスの分解、荒廃、および免疫調節不全、細胞核因子κBの活性化がある。タバコ煙やその他による反復した気道の損傷により、遺伝的エラーや肺組織を構築する細胞の悪性形質転換を引き起こす可能性がある。


・喫煙によって誘発される障害には遺伝的に起こしやすい人があり、有害因子による変化が個体で異なる。


・喘息は慢性気道炎症であり好酸球、マスト細胞による浸潤によって媒介されるタイプ2パターンによって特徴づけられる。さらにT2ヘルパー細胞が関与している。その他に、好中球の関与優勢型や微量免疫疾患など、他の臨床型も報告されている。


・喘息ではこの再発性の軽度の炎症性変化を特徴としており、それゆえ肺がんのリスクを高めることが推定されている。しかし、逆に、アトピーおよび吸入コルチコステロイドは、肺がんのリスクを低下させるという意見もある。また免疫監視理論では、喘息が気道上皮からの毒素や発癌物質のクリアランスを亢進させることにより肺癌のリスクを低下させる可能性があることを示唆している。本研究では、喘息の喫煙者は、肺機能正常者及び低下者すなわち、COPD、およびACOグループと比較して、肺がん発生リスクの大きさが低値であった。


・文献的には、腫瘍の微小環境に応じて、好酸球が癌を抑制する役割を果たしている可能性があることを示唆している。




Q. 本研究の結論は?


・ACO患者では肺がんリスクが高いことを証明した初めての論文である。ACOの患者のリスクは、COPDの患者で観察される肺がんリスクと同様である。喘息の喫煙者で観察されるリスクよりも高い。




 喘息とCOPDでは、治療法は吸入薬を使うという共通点があり、さらに、近年、吸入ステロイドや気管支拡張薬の成分を2種類あるいは3種類を同時に含むものを使うことが主流となってきています。ACOはまさに、両方の症状だけでなく治療でも共通点を有しています。しかし、治療経過の中でACOはCOPDに近い肺がんのリスクを有していることを本論文は明らかにしています。私たちのクリニックでも多くのCOPD及びACOの患者さんを診ていますがしばしば、早期肺がんが発見されています。



参考文献:


1. Charokopos A. et al. Lung cancer risk among patients with asthma–chronic obstructive pulmonary disease overlap. Ann Am Thorac Soc 2021; 18: 1894–1900.

DOI: 10.1513/AnnalsATS.202010-1280OC


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