2022年1月8日
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)は、肥満気味の中年男性に多く、日中の居眠りが問題であるという観察研究が元になり、社会的にも重要な病気として注目されるようになりました。
OSAに関する研究は、最近10年間で非常に進歩しました。特に注目されるのは、OSAは、眠気を起こす病気というよりも心臓および脳血管病変を来し、障害を起こし、死因に直接、つながる重要な疾患と考えられるようになったことです。特にSleep Heart Health Study(SHHS;2018)と呼ばれる研究グループから多くの知見が明らかになりました。
ここで紹介する論文[1]は、フランスの研究グループによるもので睡眠中に生ずる酸素欠乏状態こそが心血管病変となることを示唆した最新の論文です。
本研究の背景となったSHHSの論文の一つ[2]を紹介し、次いで、最近のフランス・グループの論文[1]を紹介します。
Q. Sleep Heart Health Studyで判明したことは?
・OSA(無呼吸低呼吸指数(AHI)≥15イベント/時間)の1,207人の患者からのデータを使用して、潜在クラス分析を使用してOSAのサブタイプ(細分類)と心血管疾患(冠状動脈性心臓病、心不全、および脳卒中)の有病率との関連を評価した。
・OSA症状のサブタイプでは、過度に眠いということは、他のサブタイプと比較してリスクの増加(ハザード比、1.7–2.4)を示した。偶発的な心血管疾患(P<0.001)、冠状動脈性心臓病(P=0.015)、および心不全(P=0.018)、OSAのない個人(無呼吸低呼吸指数<5)と比較した場合、特に過度に眠いサブタイプの患者で、心不全のリスクが3倍以上増加した。
・この研究では、中等度から重度の閉塞性睡眠時無呼吸症の患者のサブタイプを特定するために、「過度に眠い」という臨床症状が重要であるということを示した。さらに、これらの症状を示すサブタイプは、心血管系の有害なリスクと関わっていた。以上の結果より、過度に眠いOSAでは心血管リスクが高いということが示唆された。
しかし、フランス・グループの研究はその結論をひっくり返すものだった。
Q. フランス研究グループの結果は?
・目的:OSAで特有な低酸素状態と心血管病変が関係することを明らかにする。
方法:明白な心血管疾患がないOSAの患者、5,358人の患者を平均78ヶ月間、追跡調査を実施し、心血管イベント(MACE)との関係を統計学的に明らかにした。低酸素状態の指標は睡眠中に酸素飽和度が正常値以下となる不飽和曲線下の呼吸イベント領域の総面積を指標(HB)とした。また、パルスオキシメータで90%以下となる時間数を測定した(T90)。
・結果:追跡期間中央値78か月の後、592人(11.05%)の患者のうち、292人の死亡と300人のCVイベント(冠状動脈性心臓病:48.9%、脳卒中:27.3%、心不全)を含む複合転帰が観察された。
・HBとT90は、AHIとODIよりもMACEとの関連性が高いことが判明した。
肺疾患および喫煙習慣を補正した後でもHBとMACEの発生率には用量反応の関係が認められた。この関連性は、男性よりも女性の方が強かった(P=0.03)。さらに高齢者よりも65歳以下で強かった。眠気との関係では「適度に眠い(エプワース眠気尺度[ESS] = 8 [5–11])」グループのHBが最も高く(53 [23–118]%分/時間)、次に「症状が最小限(ESS = 7 [ 4–9])」、「過度に眠い(ESS = 13 [11–16])」、および「睡眠障害(ESS = 6 [4–8])」グループの順であった。
Q. 考察は?
・Sleep Heart Health Study(SHHS; 2018)ではAHI、酸素飽和度が90%未満の時間(T90)、およびHB中央値は、それぞれ16(10–27)、0.4%(0%–2.6%)、および42%min / h(26–69%min/ h)であった[2]。比較すると、フランス・グループ研究[1]では、AHI、T90、およびHBはそれぞれ27(14–42)、2%(0%–7%)、および32%min / h(13–71%min / h)であった。したがって、後者ではOSAの重症度が高いにもかかわらず、Sleep Heart Health Studyの結果と比較して、HBの程度は低かった。
・同定された眠気を指標としたOSAのサブタイプ(最小限の症候性、睡眠障害、過度の眠け、および中程度の眠け)と心血管病変との関連を調べた研究では、「過度に眠い」サブタイプのみが、OSAのない被験者と比較してインシデントCVイベントのリスクの増加と関連していた。
・他方、フランス研究グループではOSAではHBの上昇を示す患者は、心血管病変およびすべての原因による死亡のリスクが高くなった。
・T90は、睡眠呼吸障害に関係なく、COPDや心血管疾患リスクの層別化に使用できる可能性があるが、OSAに関連しない持続的な低酸素血症を捕捉する可能性があるため、非特異的であり、OSA関連のリスクを測定するための適切な指標ではない。
・T90に代わる指標として新しいHB測定の有用性を提唱している。これらのデータは、心血管リスクの前兆となるOSAに特に関連する夜間低酸素症の役割の重要性を強調する。
・OSAの臨床的疑いについて調査された患者では、HBはインシデントCVイベントと死亡の独立した予測因子であった。HBは、臨床診療において、CVイベントのリスクが最も高いOSAの患者を特定するために使用できる。
・将来の研究方向では、心血管リスクに寄与する説明的な睡眠時無呼吸特有の低酸素メカニズムの経路を明らかにすることが必要である。OSAにおける断続的な低酸素症は、オレキシン(アラート)ニューロンの機能障害に関係しているとされている。
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の有病率は、推定で男性では20~30%、女性では10~15%であり、いずれも心血管病変の合併頻度が高いことが推定されています。今回のフランス・グループの研究では、強い眠気ではない、65歳以下の女性で心血管病変が多いことを指摘したものです。顎が小さな小顎の女性では、OSAの頻度が高いことが知られています。
フランス研究グループの研究では眠気やいびきの強さはOSAでは、心血管病変の合併頻度とは必ずしも一致しないことが判明しました。
喘息やCOPDがOSAと併存している場合にはさらに複雑になります。高血圧がある65歳以下の女性では、OSAがあるのではないかと疑ってかかることも必要でしょう。ここでは、心血管病変の合併に焦点が絞られていますが夜間の高度の低酸素血症は、認知症の発症に関わるという論文があり、低酸素状態があるかどうかは重要な問題点です。
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