2022年1月13日
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症がCovid-19です。Covid-19は、わが国では2022年に入って第6波の可能性が極めて高くなりつつあります。感染者の総数は約174万人、死者は、1万8,000人あまりに達しており(2022年1月5日現在)、収まる気配を見せていません。
他方、Covid-19に関する基礎科医学および臨床情報は短期間で莫大な量に増加しています。
欧州呼吸器学会では、ごく最近、会員に向けてCovid-19の総括ともいえる解説集を出版しました。疫学統計や、経済に与える影響などカバーしておりその領域は広範ですが、ここではCovid-19感染後の後遺症についての情報を紹介します[1]。情報のソースは信頼できる論文として発表されたものですが2021年10月現在の情報と断りが入っています。
Q. 後遺症の考え方は?
・治療という点では、心臓・肺における後遺症と心臓・肺以外の後遺症を分けて考えることができる。
・長期的なCOVID-19後遺症の根底にあるメカニズムの特徴づけは、まだできていない。
・後遺症は、急性感染期が持続する症状を反映しているか、または感染持続に続発する症状を反映している可能性がある。
・過剰炎症状態または進行中のウイルス活性とこれに対する不十分な宿主抗体応答と見なすことができる。
Q. COVID-19の再感染の可能性は?
・SARS-CoV-2による再感染の可能性を示唆する論文報告は3万件を超えている。感染してから一旦は、完全に回復した後に再び感染することがある。
・SARS-CoV-2の異なる株による再感染の記録がある。
・逆に、韓国からの292例の再陽性症例を分析した結果では、患者は無症候性であるか、軽度の症状であり、新しく陽性と判断されたサンプルはおそらく以前が偽陰性によるものであると結論されている。
・実際の再感染ではなく、持続的にSARS-CoV-2排出が続いている可能性がある。
・再陽性は主に無症候性の患者で発生していた。興味深いことに、5.6%の患者は、症状の最初の発症から7日後の時点で発熱34.5±18℃(平均±SD)であった。大部分のケース(96.7%)で経過は良好であり、死亡者はわずか2.1%であった。
・合計9人の再陽性患者を評価し、6人ではPCRが陰性である結果から再陽性の患者には生ウイルスが存在せず、感染性はないと推定した論文がある。
・再発は主に高齢者、免疫応答が低い場合にみられた。
Q. COVID-19後の再入院と死亡とは?
・退院後の再入院と死亡は、ミシガン州(米国)の2,179人の大規模な観察研究がある。入院患者と退院後60日以内の再入院(19.9%)と死亡者(9.1%)であった。
・再入院の最も一般的な理由:Covid-19が持続(30.2%)、敗血症(8.5%)、肺炎(3.1%)、心不全(3.1%)。 再入院の患者は年齢が高く、22.6%が集中治療室での治療となった。
・他の一般的な疾患と比較した場合、60日以内のCovid-19の再入院率はむしろ低かった。
肺炎および心不全よりもCovid-19の再入院率は低いが、10日以内の再入院率は、肺炎や心不全の再入院率よりも高かった
➡理由としてベッドが逼迫しており早期すぎる退院が再入院を促した可能性がある。
Q. COVID-19後遺症の定義と分類は?
1)時間ベースの定義
・平均追跡期間が退院後3か月しても症状が持続する場合に後遺症と見なす研究が多い。
・最近、世界保健機関(WHO)は、Covid-19後の後遺症を、SARS-CoV-2再感染の可能性がある、または確認されたCovid-19感染病歴のある患者、Covid-19後、通常3か月たっても症状が続く場合に分類することを提言している。
・Covid-19の発症から症状が2か月間以上続き、Covid-19以外の他の代替診断がなされている場合とした。これらの一般的な症状には、倦怠感、息切れ、認知障害などがある。
・現在までに、これ以上、長い期間の観察研究は存在しない。
2)異なる症状の持続
・後遺症発症には、急性期での最初の週の症状に差異がある
➡倦怠感(OR 2.83、CI 2.09–3.83)、頭痛(OR 2.62、CI 2.04–3.37)、呼吸困難(OR 2.36、CI 1.91–2.91)、嗄声(OR 2.33、CI 1.88–2.90)および筋肉痛(OR 2.22、CI 1.80–2.73)。
・回復後28日目に進行中の症状を呈し、その最初の週に5つ以上の症状を報告したのは、女性、高年齢、BMI高値の場合であった。最近の系統的レビューとメタアナリシスでは患者の80%が1つ以上の症状がみられた。倦怠感(58%)、頭痛(44%)、注意欠陥(27%)、脱毛(25%)および呼吸困難(24%)であった ➡女性、高齢者では後遺症を残しやすい。
3)重大度ベースの定義
・Covid-19後の後遺症は、重症度に応じて軽度、中等度、重度の不可逆的な後遺症に分類できる。
・軽度の後遺症は、治療を必要としない持続的であるが可逆的な症状が含まれる。
症状は、回復後3ヶ月と6ヶ月目では、ほとんどの患者に存在し、通常は全身性過炎症(倦怠感、関節痛および筋肉痛、頭痛)に関連する複数のメカニズムを反映している。また、呼吸困難(呼吸困難、咳)あり。特定の臓器の損傷と数週間の安静後の体調不良を含む。
身体活動が低下。
・中等度の後遺症では、診断と治療の観点から積極的な治療介入を必要とするが一般的に治療可能であり、可逆的である。これらの合併症で多いのが神経学的症状である。耳鳴り、認知症、うつ病、不安神経症、強迫性障害(OCD)がある。
・重度の後遺症はまれであり、次のような慢性臓器不全がある。
心筋炎、腎不全または肺線維症を含む心血管イベント。これらは、通常、長期的であり、可逆的ではなく、潜在的に進行性である。それらは急性期に起こった臓器損傷の結果として起こる。
4)臓器ベースの定義
・Covid-19の後遺症は、複数の臓器に関係し、さまざまな症候群を引き起こす可能性がある。
・長期の肺または長期の心機能障害が発生する可能性が最も高い。
以下は、これまでに報告された分類を示す。
・心臓・肺系および呼吸器以外の後遺症に分類される。
心臓・肺後遺症
呼吸器後遺症には以下がある:肺線維症(重度の肺損傷として多くの人に続発することが判明している)。細菌感染症による肺炎。
Q. Covid-19の後遺症としての間質性肺炎あるいは肺線維症とは?
・SARS (SARS-CoV-1による感染症)およびMERSでも後遺症として認められた。
・SARSの生存者のコホートで間質性肺炎は患者の4.6%。
・Covid-19の重篤な合併症としての進行性間質性肺炎で肺移植を実施した報告例がある。
Q. Covid-19の後遺症としての間質性肺炎の発症機序は?
・根底にある病態生理学的メカニズムは不明である。
・免疫活性化および肺胞上皮損傷後の異常な修復による可能性がある。
・線維芽細胞の増生とコラーゲンの過剰な沈着を伴う反応である。
・間質性肺炎が直接の組み合わせから生じるかどうか、そしてどの程度の割合で起こるかウイルス感染によるか、炎症性サイトカインストームおよび換気誘発性肺損傷であるかが議論されている。
・中国ではパンデミックの初期では62例のうち21例(33.9%)で肺の間質性変化が生じたと報告された。
この発症は病気の初期段階(症状の発症から7日以内)よりも進行期(Covid-19発症後8〜14日)である可能性が高い。
・ノルウェーからの多施設前向き研究では、以前に入院した3か月のICU患者15人を含む103人の患者の胸部CT像を分析した。
永続的なすりガラス像が最多であった。全体的なコホートでは19%で、進行性の肺線維症への移行がみられた。
・系統的レビューでは、35%の患者に胸部HRCT像の変化が見られたことが報告されている。多くは、急性期の発症から60〜100日後にみられた。
・注目されるHRCT像の変化は人工呼吸器装着例で多かった。
しかし、肺の間質性変化は、大多数の患者で時間とともに改善した。
90日間のCTスキャンでの比較では、スリガラス陰影、網状構造が大幅に減少した。
・死後のシリーズと剖検報告では、顕著な線維性肺実質のリモデリングが観察された。
・Covid-19関連の間質性肺炎・肺線維症の疫学的影響は不明であるが危険因子には、高齢者、重症者、集中治療室での滞在期間の長い場合、および喫煙習慣、慢性アルコール依存症のリスクが高い。
50歳未満で発生することは極めて少ない。
LDHレベルを含む疾患の重症度のバイオマーカーは、相関することが実証されている。
・Covid-19後の間質性肺炎に対する治療として長期ステロイドまたは抗線維化薬の使用の理論的根拠は少ない。
・肺機能低下と呼吸困難は、特に低酸素血症に関しては退院時の肺機能の異常によるとされ、拡散能低下は、多くの患者で報告されている。肺機能の低下は、回復後60〜90日間持続することも報告されている。肺活量、ガス交換能の低下があり、低酸素血症が見られる。急性期の3〜6か月後に容量が徐々に回復する。
Q. 心臓および循環器系の後遺症の問題は?
・拡張機能障害は、Covid-19後に頻度が高い心臓の変化として報告されている。
機能不全はCovid-19の診断後60日および100日でそれぞれ全患者の60%および55%に達した。しかし、現時点でのエビデンスは中程度とされており確定的ではない。今後前向き多施設観察研究が必要である。
・心筋炎は、患者の58%で報告されているがエビデンスレベルは低く今後の観察研究が必要である。
・急性期における高血圧の発症が報告されている。理論には議論があり、呼吸器の悪化に関連して起こると考えられている。レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系の調節異常ではないか、とする説がある。
Q. 心臓・肺以外後遺症とは?
・血液凝固因子の持続的な変化がある。
急性期および主に重症の場合にみられ炎症性サイトカインのシグナル伝達、IL-1、IL-6、TNF-αを含み、凝固の活性化が起る。
・凝固促進状態は、血栓塞栓症の発生率を高める可能性がある。
Covid-19中の合併症として患者の35〜45%で発生すると報告されている。
・血中D-ダイマーは、Covid-19からの回復後3か月で患者の23%で上昇は持続していた。
Q. 末梢神経の障害とは?
・神経学的な後遺症は、SARS-CoV-1によるSARSあるいはMERSでも報告がある。
・最も頻度が高い症状は、末梢神経障害、ミオパチー、脳幹脳炎およびギランバレー症候群と呼ばれるものである。
・呼吸器症状の2〜3週間後に現れる神経学的症候群が多い。
・多発性硬化症の患者の48%にSARS-CoV-2やSARS-CoV-1と同種のコロナウイルス感染ありとの報告がある。
・SARS-CoV-2は、逆行性に軸索輸送を介して中枢神経系に広がる可能性がある。
あるいは嗅神経などの末梢神経を介する感染経路、または血流を介しての感染が推定される。この推定根拠は、SARS-CoV-2が他の種と同じ神経栄養性を持ち、COVID-19後の長期的な神経学的後遺症の発生の理論的根拠ともなっている。
・前向き観察研究においてCOVID-19の28.6%で認知症が報告されたという報告がある。
・「脳の霧(ブレインフォッグ)」という用語は、7.2%で報告された非特異的な認知障害を表すために使用されている。
・「脳の霧」の発症を説明できるのは、高いウイルス量の存在が根拠であり、中枢神経系、特に患者の神経ミトコンドリアに影響を与えると云われている。
・ただし、閉じ込めとストレスの多い条件がCovid-19を発生しやすくしており、神経認知症状の悪化と関連しているという説があり、Covid-19が認知障害を来すかどうかについてのエビデンスは中程度である。
Q. 皮膚症状は?
・急性期の皮膚合併症の発生率は4.9%~20%である。
・紅斑性発疹と蕁麻疹が最も頻度の高い症状であり、おそらくT細胞免疫の活性化と肥満細胞の脱顆粒と関係しており、皮膚感染症の可能性は低い。
・しもやけ様病変、虚血性病変および斑状末端病変も記載されている。
・休止期脱毛症がみられる。数週間または数ヶ月後に発生する多量の脱毛がみられる。
全身性ストレスの影響が疑われる。最も可能性の高いトリガーは、高レベルの炎症誘発性である。
・別の考えられる原因は、Covid-19の血栓治療に使用されるヘパリノイドの影響である。
・この合併症のリスク女性(78.5%)に高い。急性疾患の重症度に関係なく、年齢の中央値(範囲)は47.4(15–88)歳。髪喪失は通常、感染の発症から4週間後に始まり、平均±SD 期間は57.1±18.3日である。
患者の大多数は、感染による高レベルの感情的ストレスを報告している。脱毛は彼らの健康状態についての不安の増大に関係している。ビタミンBの使用は、抜け毛の期間を短縮するという報告がある。
Q. 胃腸症状とは?
・胃腸の症状は一般的で、下痢(3.8〜34%)、吐き気、嘔吐(3.9–10.1%)、および腹痛(1.2%)は、急性期に最も一般的に報告されている。
Q. 肝機能の変化は?
・肝酵素とビリルビンの上昇は、急性期で特に重症の場合にみられ、異常な全身性炎症または低酸素による傷害が疑われている。
Q. 腎不全は?
・急性腎不全はCovid-19の罹患中に報告されており、回復後も持続するか、慢性的な変化に発展する可能性がある。症例の13%で、腎障害が見られたという報告がある。
Q. Covid-19の後遺症をめぐる論文の総括は?
・Covid-19は、長期の後遺症を引き起こす可能性がある。
・症状では、倦怠感、頭痛、注意力欠如、脱毛、呼吸困難の頻度が高い。
・後遺症の重症度は、通常、Covid-19感染の重症度に関連している。
急性期では、高齢者と他の併存疾患を持つ場合が危険因子となる。
・長期後遺症は、一部で生ずる変化であり、急性期に重症であった場合、および感染初期から長期にわたり症状が続いた場合に相当する。
・現時点の報告では、Covid-19感染後にどのように回復していくかについては不明の点が多く、長期の追跡調査が必要である。
Covid-19の後遺症は多彩ですが、大別して心臓・肺と心臓・肺以外の臓器による障害に分けて考えるという説明は、分かりやすく納得できます。
長期にわたる後遺症がどのように改善、悪化していくかの詳しいデータは現在のところありません。また、治療法についても明確な指針はありません。
現時点では感染予防こそが最良の治療法と言えます。
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