top of page

No.233 睡眠時無呼吸症候群に関する話題

2022年1月17日

 医療に関する新しい情報は日進月歩ですが、睡眠時無呼吸症候群に関する研究にも急速な進歩があります。米国肺学会は、呼吸器系の研究、啓蒙で世界をリードしていますが、毎年、進歩の跡を要約して知らせています。2019年にAmerican Journal of Respiratory and Critical Care Medicineおよび Annals of the American Thoracic Societyなどに発表された、睡眠医学の分野での新しい情報を中心にまとめています[1]。


ここではそのうち、臨床医学に関する論文のアウトラインを紹介します。




Q. 鼻粘膜に変化が起こるか?


研究の仮説:閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)ではCPAP治療が行われるが開始で鼻閉や鼻汁を訴える人がいる。CPAP治療が鼻粘膜の異常を起こすことはないだろうか[2]?


・重度のOSAでCPAP 治療を開始した人たちの治療開始3か月後の炎症バイオマーカーと粘膜の微生物(鼻マイクロビオーム)の比較を実施した。結論として変化は認められなかった。


・研究は治療開始後3か月目までの比較であるが、これ以降も変化がないかどうか、さらに、鼻咽頭への口腔内内容物の逆流がOSAでは起こりやすいことが知られているので、発症または悪化の一部であるか、または障害の副産物であるかどうかを評価することが必要である。




Q. OSAとCOPDが共存している場合のリスクとは?


研究の仮説:OSAとCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の合併例は多い。両者の合併例に起こるリスクは何か[3]?


・10,000人以上のカナダ人の臨床データセットにおけるOSAおよびCOPDの発生、心血管イベント、死亡率の発生率をOSAとCOPDの合併例(=オーバーラップ症候群)を調査した。


・オーバーラップ症候群(AHI >30およびCOPD)を有する者は、重度のOSAもCOPDもない個体と比較して、9.4年間の中央値にわたって心血管イベントおよび死亡率(調整された危険度[HR]、1.53;95%信頼区間[CI]、1.27-1.84)の割合が53%増加した。


・オーバーラップ症候群でAHI≤30あっても睡眠中に酸素飽和度<90%が10分間以上、続く場合には大きなリスクを有していた(HR1.91;95%CI、1.60-2.28)。さらにオーバーラップ症候群を有し、CPAP治療を未実施の人で最も危険な量が見られた(HR、2.01;95%CI、1.55-2.62)。女性のオーバーラップ症候群では相互作用による相対的な過剰リスクは男性よりも高い。


未治療女性のオーバーラップ症候群は男性よりも心血管イベントおよび死亡率のリスクが高い




Q. CPAP治療が心血管疾患および脳卒中の予防となるか?


研究の仮説:CPAP治療により心血管疾患、脳卒中を予防できるか?


・SAVE(睡眠時無呼吸および心血管エンドポイント)と呼ばれる大規模な国際研究では、心血管疾患(CVD)および中等度から重度のOSAの患者をCPAPで治療しても、深刻な心血管イベントを予防できなかった[4]。


CVD患者の40〜60%でOSAが発症し、併存するCVDを発症し、CVDを悪化させるリスクの増加にOSAが関連していた[5]。


・SAVECPAPと呼ばれる研究グループのさらなる分析では収縮期血圧と拡張期血圧(BP)の両方がCPAPの使用により最初に低下し、さらに収縮期BPの変動性(BPV)がCVDの発症に関わっており、収縮期BPと収縮期BPVの両方が脳卒中の予測因子であった。


・収縮期BPが予後に重要な役割を果たしており、これはCPAP治療により改善することが示唆された[6]。




Q. CPAP治療は鬱状態を改善するか?


研究の仮説:OSAでは欝症状が多いがCPAP治療で改善するか?


・うつ病と冠状動脈疾患[CAD]に対するCPAP治療の影響を判断するために、眠気のないOSAの患者を評価した(n = 203)。CPAPが抑うつ症状の改善効果を示さなかった。しかし、ベースラインでうつ病を患っている人の場合では、3か月のCPAP治療により、最大12か月間うつ病スコアが改善した[7]。




Q. OSAの朝の血圧に対する酸素吸入の効果は?


研究の仮説:断続的低酸素症がOSA患者に対する酸素吸入の影響は[8]?


・OSA患者では昼間の高血圧の主要なメカニズムに関係するかどうかは不明である。


・著者らは、無作為化二重盲検クロスオーバー試験で、よく治療されたOSAの38人の患者の日中のBPに対する夜間の酸素吸入群(NSO)と空気吸入群への影響を比較した。昼間BPにはNSOは影響せず。14日間、CPAPを中止とし、NSO群では収縮期および拡張期の家庭血圧の上昇が抑えられた(それぞれ6.6および4.6 mmHg)。著者らは、覚醒を介した交感神経活性化ではなく、睡眠中の断続的な低酸素症がOSAの日中高血圧の主な原因であり、CPAP不耐性患者のNSOによる治療について更なる研究が必要であると結論付けた。しかし、NSOは、眠気と覚醒イベントを緩和しなかった。これは、OSAの一部ではCPAP治療を実施しない場合には、マウスピースと酸素吸入の併用療法が必要な場合があることを示唆する。




Q. 軽症のOSAにおける遠隔医療のメリットとは?


研究の仮説: OSAにおけるCPAPの使用時間、頻度などアドヒアランスを改善するために遠隔医療を応用の可能性は?


・ランダム化比較試験で約200人の参加者を6か月間、CPAP使用に対する遠隔医療による標的介入の影響を調べるための研究を実施した。介入には、CPAPマシンをテレメトリ・デバイスに接続し、CPAPの使用の重要性に関する教育と動機付けを実施し、アドヒアランスが低い場合、または過度のマスク漏れが観察された場合に介入を開始した。遠隔医療のサポートは実現可能だったが、対照群の方が高いアドヒアランスを呈し、「天井効果」を生み出したため、介入はCPAP使用全体を大幅に改善しなかった。

軽症のOSAの患者ではCPAPのアドヒアランスの改善が期待でき、標的遠隔医療介入の有用性を示唆した[9]。




Q. 妊娠中のOSAスクリーニングの重要性は?


研究の仮説妊娠中の睡眠時無呼吸の存在はどうか[10]?


妊娠中の睡眠時無呼吸は、母子の両方の健康状態を悪化させる。ただし、これまでの研究方法で検討されたスクリーニング・ツールは、日常の臨床ケアに組み込むには煩雑すぎるか、診断精度が不足している。


・妊娠中の睡眠時無呼吸の新しいスクリーニング・ツールの精度を開発してテストした。BMI(ボディマス指数)、年齢、および舌のサイズの簡単に評価された組み合わせによるチェックでは、特にアフリカ系アメリカ人の女性の間で、睡眠時無呼吸の存在は高度(>75%)であった。妊娠中の女性のより多様で代表的な集団でツールを検証するために、将来の研究が必要である。




Q. 喫煙と睡眠の質と持続時間は?


研究の仮説:喫煙は睡眠の質に影響するか?


・オンライン調査への274人の回答者において、電子タバコと従来のタバコ(単独および組み合わせの両方)の使用と睡眠の質との関連を調査した。両方使用のデュアルユーザーは最低の睡眠の質を示した(平均ピッツバーグ睡眠品質指数スコア= 8.77)、他方、非喫煙者は最高の睡眠の質を経験した(平均ピッツバーグ睡眠品質指数スコア= 7.09; ANOVA P値= 0.027)。


・さらなる解析では、これらの結果は女性の電子タバコと従来型タバコの二重使用者では睡眠の質に対する重大な悪影響が引き起こされたが、男性には有意な影響を及ぼさなかった。


・電子タバコの使用または従来の喫煙のみは、どちらの性別でも睡眠の質の悪化とは関連していなかった。



総括

・睡眠医学の分野で2019年度に実質的な進歩がみられた。それらは、睡眠障害の結果と新しい治療への応用に関する重要なヒントを生み出した。


・睡眠障害の原因の特定と、管理における個別化(エンドフェノタイプ)と、個別化された治療の開発があった。これらの重要な研究は、睡眠医学におけるさらなる変革科学に大きな期待を抱かせる。




 睡眠時無呼吸に関する近年の研究の進歩は、基礎研究から臨床応用まで幅広い領域にまたがっています。

 睡眠時無呼吸が眠気や肥満の問題を越えて心血管病変、脳梗塞など広い範囲にわたっていることが判明してきました。

 薬物や、頸部の電気刺激により改善しようとする研究もありますが、現時点ではCPAP治療がもっとも簡便で優れている治療と言えます。




参考文献:


1.Leary, EB.et al. Update in Sleep 2019. Am J Respir Crit Care Med Vol 201, Iss 12, pp 1473–1479, Jun 15, 2020

DOI: 10.1164/rccm.202003-0586UP on April 15, 2020


2.Wu BG, et al. Severe obstructive sleep apnea is associated with alterations in the nasal microbiome and an increase in inflammation.

Am J Respir Crit Care Med 2019;199:99–109.


3.Kendzerska T, et al. Cardiovascular outcomes and all-cause mortality in patients with obstructive sleep apnea and chronic obstructive pulmonary disease (overlap syndrome). Ann Am Thorac Soc 2019;16: 71–81.


4.McEvoy RD, et al. CPAP for prevention of cardiovascular events in obstructive sleep apnea.

N Engl J Med 2016; 375:919–931.


5.Tietjens JR, et al. Obstructive sleep apnea in cardiovascular disease: a review of the literature and proposed multidisciplinary clinical management strategy.

J Am Heart Assoc 2019;8:e010440.


6.Van Ryswyk E, et al. Effect of continuous positive airway pressure on blood pressure in obstructive sleep apnea with cardiovascular disease.

Am J Respir Crit Care Med 2019;199:1433–1435.


7.Balcan B,et al. Continuous positive airway pressure treatment and depression in adults with coronary artery disease and nonsleepy obstructive sleep apnea: a secondary analysis of the RICCADSA trial. Ann Am Thorac Soc 2019;16:62–70.


8.Turnbull CD, et al. Effect of supplemental oxygen on blood pressure in obstructive sleep apnea (sox): a randomized continuous positive airway pressure withdrawal trial.

Am J Respir Crit Care Med 2019;199:211–219.


9.Schoch OD, et al. Telemedicine for continuous positive airway pressure in sleep apnea: a randomized, controlled study.

Ann Am Thorac Soc 2019;16:1550–1557.


10.Balserak BI, et al. Obstructive sleep apnea in pregnancy: performance of a rapid screening tool.

Sleep Breath 2019;23:425–432.


11.Boddu SA, et al. Use of electronic cigarettes with conventional tobacco is associated with decreased sleep quality in women.

Am J Respir Crit Care Med 2019;200:1431–1434.


※無断転載禁止


閲覧数:298回

最新記事

すべて表示

No.282 睡眠時無呼吸症候群の治療で問題点となっていることは何か?

2023年6月30日 睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に上気道が狭くなる閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)と睡眠中も正常な呼吸運動の持続が妨げられ呼吸停止を繰り返す中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA)に大別されています。肥満、上気道狭窄が主な原因とされているOSAは世界中で10億...

No.247 慢性腎臓病と睡眠時無呼吸症候群の関わり

2022年4月4日 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)は、いびきをかく、熟睡できない、昼間にも眠気が強い、居眠り運転の原因となる、など歴史的には社会的な視点からの問題点が指摘されてきました。しかし、近年、高血圧、脳卒中など心血管の疾患や糖尿病など多種の内臓疾患の発症、悪化要...

Comments


bottom of page