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No.240 新型コロナウィルス感染症の迅速診断薬の問題点は?

2022年3月1日


 新型コロナウィルス感染症(Covid-19)は新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)の感染により発症する急性感染症です。

 できるだけ早く診断し、特に高齢者や、免疫低下を起こしている人では可能な治療を始めること。同時に感染がそれ以上、拡散していかないよう徹底した隔離が必要です。


 デルタ株から置き換わったオミクロン株では幸い、重症化が少ないようですが感染力の強い急性感染症であることには変わりありません。


 病気の診断は経過、症状、身体所見に加え、決めてとなる診断法があります。

できるだけ早くCovid-19を診断する、ということで注目されているのが迅速診断検査です。


 ここで紹介する論文は、2022年1月7日に発行されたNew England Journal of Medicineに発表されたCovid-19の診断薬をめぐる総説ですが、丁寧に問題点を解説しています。

ただし、本論文は米国での現段階での医療の体制を元に記載されていることをご了解ください。




Q. 迅速診断薬とは何か?


・ここでいう迅速診断検査(RDT)とは米国食品医薬品局(FDA)によってSARS-CoV-2感染を診断するために認可されたものを指す。RDTには、遺伝子を検出するための核酸増幅テスト(PCR検査)またはSARSのタンパク質を検出するための抗原ベースの免疫アッセイ(抗原検査)がある。


・RDTは、Covid-19の症状のある人、およびCovid-19の人との濃厚接触している、または潜在的に高リスクの感染環境にある無症候性の人での使用が承認されている。




Q. 濃厚接触に対する迅速テストの考え方は?


・Covid-19を疑わせる症状がある場合は、できるだけ早く検査を受け、検査結果を待つ間隔離し、RDTが陰性である場合でも、特に(事前検査の感染確率)感染している可能性が高い場合は、再検査を検討する。


濃厚接触者で無症候性(無症状)の人は、感染者と接触後、5〜7日で検査を受け、RDTが陰性の場合は、2日後に再度検査を受ける必要がある。


・2回のワクチン未接種で、SARS-CoV-2への接触が判明している人では、検査結果を待つ間は隔離する。検査結果が陽性の場合は、隔離し、医療提供者または公衆衛生部門に連絡する。




Q. 診断テスト実施の現状と進歩は?


・過去数十年の間に、ヒト絨毛性ゴナドトロピンを検出するための尿検査(妊娠検査キット)やヒト免疫不全ウイルスを検出するための検査(HIV迅速検査キット)などの迅速診断検査(RDT)が、医療現場全体および高資源環境と低資源環境の両方でますます使用されている。これらのテストにより、診断と治療が容易になり、検査室の負担が減った。


・世界的には、臨床検査室ではSARS-CoV-2に対して約30億回の分子診断テストを実施した。米国は、6億回以上のテスト(1人あたり2.0テスト)を実施した。中国は完全なテストデータを報告していない。1人あたりの総検査率は、英国、デンマーク、オーストリアを含むヨーロッパ全体で高い(1人あたりの検査はそれぞれ4.8、8.2、12.3)。


大量の核酸増幅検査(NAAT)(いわゆるPCR検査)の実施は、技術的に困難で、労働力が必要で、効率的な検体輸送および報告システムに依存し、費用がかかる。しかも、広く、公平に実施することは困難。




Q. SARS-CoV-2感染とは?


・SARS-CoV-2は主に呼吸器気道病原体であり、感染は主に小さな液滴とエアロゾルの吸入によって起こる。 B.1.617.2(デルタ)変異体を含む新規ゲノムウイルス変異体は、元のD614Gウイルスよりも感染性が高く、集団内での拡散が速いが、感染と病気の病態生理は同じである。


・WHOは最近、B.1.1.529(オミクロン)バリアントを6番目の「懸念のバリアント」と命名した。これまでの変異体よりも感染性が高いが毒性が低い。




Q. 迅速診断検査の問題点は?


・400以上の迅速診断検査(RDT)を含む、SARS-CoV-2の検出目的に1,000種類以上の分子および抗原ベースのイムノアッセイテストが、現在世界中で市販されている。


・RDTは、ヨーロッパでは店頭で購入できるが、米国や低中所得国では入手がより困難である。 2021年12月、バイデン政権は5億の迅速な在宅検査を購入し、2022年1月に最初の配達を開始し、迅速診断検査を増やす計画を発表した。




Q. CDCが推奨する診断検査の適応は?


診断検査の一般的な適応症では、以下の3つの可能性がある。


1)ワクチン接種の有無に関係なく、Covid-19に合致する症状がある人は、全員、検査を受ける必要がある。


2)ワクチン接種状況に関係なく、SARS-CoV-2感染が疑われる人または可能性のある人と濃厚接触者は無症候性(無症状の人)であっても、診断検査を受ける必要がある。


3)航空機やスポーツイベントなど、感染のリスクが高い環境にいる無症候性の人での検査を検討する必要がある。また、RDTの使用は、イベントを計画している人たちにも考慮される場合がある。感染している可能性が低い場合でも、迅速検査は、可能な限りイベント開催日に近いタイミングで行う必要がある。




Q. RDTの特徴は?


分子NAATまたは抗原ベースのアッセイはいずれもRDTとして利用できる。


分子NAATは、NS、およびE遺伝子とオープンリーディングフレーム1ab (ORF 1ab)を含むウイルス遺伝子標的の有無を検出する。

逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)アッセイは、世界中で最も広く使用されている診断用SARS-CoV-2NAATである。


・イムノアッセイとも呼ばれる抗原ベースのテストは、SARS-CoV-2に特異的なヌクレオカプシド、スパイク、受容体結合ドメインなどの表面タンパク質のドメインを検出する。


・どちらの手法も非常に特異的であるが、NAATは標的ゲノム配列を増幅するため、一般に抗原ベースのテストよりも感度が高い


・SARS-CoV-2に対する宿主IgGまたはIgM抗体を検出するための検査は、急性感染症の診断には使用しない。これは感染の既往歴があるかどうかを確認するために実施する。




Q. 検査の問題点は?


NAATは非常に感度が高く正確であるが、感染後数週間から数か月は陽性のままである可能性がある。


・ウイルス培養の研究によれば、SARS-CoV-2では症状発現後10〜14日間しか複製できないことを示唆している。NAATでは複製能力のあるウイルスの回復期間をはるかに超えて残存ウイルスRNAを検出する可能性がある

➡実際は感染の恐れが少ない状態になっているにも拘わらず陽性が持続する。


・逆に、抗原ベースのアッセイでは、症状の発症後5〜12日間、陽性となり、ウイルス量が多い人でより一致性が高い。これは、疾患の重症度と死亡とに相関する

➡したがって、抗原ベースの検査は、分子検査よりも複製能力のあるSARS-CoV-2との相関性が高く、潜在的な伝染性(人へ感染させうる性質)に関する情報を提供する。




Q. 米国でのRDTの動向は?


・食品医薬品局(FDA)、WHOは2021年12月の時点で、FDAは急性SARS-CoV-2感染の診断のために28のRDTに緊急使用許可(EUA)を与えた。FDA承認のテストがさらに増えると予想される。EUでは、140種類以上が、抗原ベースのRDTを登録している。


・EUA許可の分子および抗原ベースのRDTには、さまざまな病原体標的、検出方法、検体を採取するための擦過部位、使用の適応症、および性能特性がある


・複雑性の低い環境での使用を目的としたいくつかの分子RDTについて、FDAは、臨床検査改善修正(CLIA)の免除証明書(地域保健センター、ナーシングホーム、学校、教会)、検査センターを想定して許可を出している。これらのRDTの一部は、在宅での使用も承認されている➡これらの分子RDTは、RT-PCR、ループ媒介等温増幅、またはニッキング酵素支援増幅を使用してSARS-CoV-2のウイルスRNAを検出し、13〜55分で結果が判明する。

すべての分子RDTは、症候性の人での使用が承認されており、無症候性の人のスクリーニングも承認されているものもある。


・抗原ベースのRDTは、症候性の人での使用が承認されており、10~30分で結果が得られる。無症候性の人をスクリーニングするための緊急使用許可(EUA)を取得しているものもある。これらのテストのほとんどは、3日間で2回使用することを目的としているが、無症候性感染を検出する感度の高い少数のテストは、連続テストなしでの使用が承認されている。




Q. RDT製品の比較は?


・直接の比較研究は限られている。


抗原ベースのRDTは、特にウイルス量が少ないか複製がない人の検査では、実験室ベースのRT-PCRとの参照標準と比較して分子RDTよりも感度が低い


抗原ベースのRDTは、ウイルス量が多い(つまり、RT-PCRサイクルの閾値が低い)場合、疾患経過の初期(症状の発症後5〜7日以内)に感染を検出できる。この時期ではウイルス量が多く、ほとんどの場合に感染の原因となる。


無症候性の人のスクリーニングにさまざまな抗原ベースのRDTを使用した場合、さまざまな程度の臨床精度(感度、36〜82%、特異度、約98〜100%)が示されており一定しない。


・在宅RDTは検査の使用を拡大するが、訓練を受けた医療提供者が実施した方が正確である。自宅でテストを行う人は、テストキットの指示に注意深く従う必要がある。




Q. 結果の解釈は?


・急性SARS-CoV-2感染後の急性期(ウイルス血症)、血中抗原陽性期、免疫応答の病時間的変化は図1のように対応する。


(図1)出典:1. Drain PK. Rapid diagnostic testing for SARS-CoV-2より一部改変


感染後の人々の中には、感染後から数週間~数カ月経過しているにも関わらず、RT-PCR陽性が持続していることがある。


・SARS-CoV-2の検査とスクリーニングのための適切なRDTの解釈は、感染後の臨床経過により異なる


・症状がある人やCovid-19の人との濃厚接触者であり無症状者、中程度から高い感染の可能性がある人の中で、陽性のRDTはSARS-CoV-2感染が確認されたことを示す➡病歴が合致しているかどうかが問題である。


・ただし、RDTは感染しているのに判定が陰性である場合、偽陰性である可能性があるため、臨床的疑いが高い場合や症状が悪化している場合、および無症候性の人の連続スクリーニングでは、繰り返し検査を行う必要がある

結果の陽性は確実である可能性が高いが、陰性の場合にはつねに疑問が伴う


・疑わしい場合で初回検査の2日後に実施した2回目の陰性RDTまたは陰性の検査室ベースのNAATは、SARS-CoV-2感染を除外するのに役立つ。


・ワクチン未接種で、濃厚接触者では、症状ありなしによらず、検査結果が判明するまで隔離する必要がある。


・SARS-CoV-2曝露のない無症状の人では1回目の陰性RDTは、SARS-CoV-2感染がないという安心感を提供できる。ただし、不完全な特異性(誤判定)があるので、陽性のRDTは偽陽性の結果を示している可能性がある。


・潜在的または既知の接触曝露があるすべての無症状の人(ワクチン接種者または非ワクチン接種者)では、14日間症状を監視する必要がある。


・SARS-CoV-2に感染曝露した人では、ウイルスが十分なウイルス量に達していないため、曝露後の最初の48時間は一般に検査は役に立たない。テストに最も適切な期間は、一般に、曝露後5〜7日後であると考えられている。(注:オミクロン株ではこれより早い可能性がある)。


・したがって、1回だけの検査で判定する場合には、感染が疑われるが無症状者では、曝露後5〜7日でRDTを使用できる。無症状者のスクリーニングでRDTを実施する場合に対してはFDAが承認した適応症として、2回の検査戦略の場合、陰性検査の2日後に2回目のRDTを実施する必要がある




Q. RDTの問題点は?


・集団対象または家庭内対応の受容性、正確性、および効果を確認の実態研究からのデータが不足している。


・診断検査を日常の医療および医療的ケアに統合するための最良の方法に関するデータも不足している。


・一部のRDTは主要なウイルス変異体の検出に優れているように見えるが、ほとんどのフィールドベースの検証研究は、デルタおよびオミクロン変異体が出現する前に実施された結果であり、現在の流行株のデータを反映していない


・新しいウイルス変異は、分子RDTによって検出されるゲノム配列が変化している可能性があり、FDAは最近、オミクロン変異体の検出が期待できない可能性がある2つの分子検査試薬について警告を発した。


・抗原ベースのRDTは、表面タンパク質(主にヌクレオカプシド)上のエピトープを検出するため、変異株においても表面タンパク質の構造を確認できるかどうかRDTの性能の評価が必要である。




Q. RDT利用の推奨度は?


・WHO、CDC、および欧州疾病予防管理センターのガイドラインはすべて、Covid-19と一致する症状のある人の診断、および急性SARSのリスクが高い無症候性の人のスクリーニングにRDTを使用することを推奨している。


・米国感染症学会(IDSA)は、症状がある人、および無症状の人のスクリーニングの両方に、抗原ベースのRDTよりも分子RT-PCRRDTまたは実験室ベースのNAATのいずれかを推奨している。ただし、IDSAは、抗原ベースのRDTが、分子検査が容易に利用できない、または実行可能でない領域で役立つ可能性があることを認めている。




 現在、わが国ではRDTは大幅に品不足の状態であり、個人購入だけでなく医療機関の購入も困難な状況にあります。

本論文ではRDTについて、「すべての症状のある人は症状の発症時に検査されるべきであり、検査結果が陰性である場合、臨床的疑いが高いままであるか症状が悪化している場合は、繰り返し検査を検討する必要がある」と述べています。また、「RDTが陽性で、感染の事前検査の可能性が低い人では、確認検査を迅速に実施する必要がある」と述べており、RDTでは、誤陰性、誤陽性の可能性がつねにありうることを強調しています。特に自宅で実施する場合にはこの点を十分に理解して実施すべきでしょう。




参考文献:


1. Drain PK. Rapid diagnostic testing for SARS-CoV-2. N Engl J Med 2022; 386: 264-72.DOI: 10.1056/NEJMcp2117115


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