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No.247 慢性腎臓病と睡眠時無呼吸症候群の関わり

2022年4月4日


 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)は、いびきをかく、熟睡できない、昼間にも眠気が強い、居眠り運転の原因となる、など歴史的には社会的な視点からの問題点が指摘されてきました。しかし、近年、高血圧、脳卒中など心血管の疾患や糖尿病など多種の内臓疾患の発症、悪化要因として注目を集めています。慢性腎臓病(CKD)もOSAに深く関わる疾患として知られるようになりました。

過去20年間、遺伝的、行動的、代謝的およびその他の新しい危険因子などCKDの進行機序についての研究が著しく進歩しました。

 

 ここで紹介する論文は、元気に日常生活を送っている人たちでOSAとCKDに気づいていないと思われる人たちを対象にOSA, CKDの関係を調査した論文です。多数の一般市民を対象にしていること、しかも日本人について調べた点が特徴です。

 最初にCKDについて簡単に説明し[1], 次いで論文[2]の概要を説明します。




Q. 注目されているCKDとは?


・世界的には成人の約10%が何らかの形の慢性腎臓病(CKD)の影響を受けており、毎年120万人が死亡している。


2040年までにCKDは世界で死因の第5位になると予想されている。これは主要な死亡原因の中で最大の増加である。


一般的には糖尿病、高血圧の患者で発症する。


・腎機能の維持は、薬物のほか、食事およびライフスタイルを変えることが必要であり、特に食事は、野菜を多くし、低タンパク質、低塩により腎の糸球体の過剰負担を軽減し、腎機能を改善する効果が期待される。


・CKDに対する薬では腎内の血行動態を改善する薬物療法が推奨される。


・透析に至らないようにする腎臓温存ケアと支持療法が勧められ、これにより長寿、QOLの向上を図ることができる

以上は[1]による。




Q. CKDの診断は?


・CKDは、主に推定糸球体濾過率と尿中アルブミン排泄にもとづき診断される。


アルブミン尿は、通常、糸球体濾過率が低下する前に現れる。アルブミン尿は、高血圧、肥満に関連している。CKDの進行と心血管病変を起こす危険因子として知られる。

以上は[1]による。




Q. 本研究の概要は?


研究目的

大規模なコミュニティーベースで睡眠呼吸障害、血圧、アルブミン尿の間の関連性を評価した横断研究。



研究方法

・2013年~2016年、滋賀県長浜市(人口12万5千人)の住民より、34~80歳、自分の判断で健診事業に参加できる人を募った。喫煙歴、飲酒習慣、投薬、脳血管障害および冠動脈疾患の有無など臨床情報を収集。


・手首のアクチグラフを少なくとも5日間、パルスオキシメーターを少なくとも2日間着用し、尿中アルブミンとクレアチニンの比率を測定するためのスポット尿サンプルを検査。尿中アルブミン定量、血清・尿中のクレアチニン、長浜研究に協力した6,000人以上の検査を実施した。さらに参加者の一部(5,313人)では睡眠呼吸障害とアルブミン尿との関連の潜在的なメデイエーターとして血圧を評価するため昼間および夜間の家庭血圧測定を行った。末期腎疾患、悪性腫瘍、OSAで治療中は除外した。睡眠呼吸障害は、アクチグラフで修正された3%酸素飽和度低下(ODI)、酸素飽和度が90%未満の睡眠時間の累積割合(%)をCT90とした。



結果

・平均年齢58歳、女性が67%。35%が高血圧、6.5%が糖尿病、平均BMIは22 kg/m2であった。


中等度から重度の睡眠障害(ODI>15と定義)が参加者の12.4%で見られ、中等度に増加したアルブミン尿(尿中アルブミンとクレアチニンの比率30~299mg/g)が7.0%で見られた。


・アルブミン尿は、軽度(ODI 5~<15)またはOSAなし(ODI<5)と比較して中等度から重度のOSAのある人ではアルブミン尿のオッズが高かった(オッズ比1.90; 95%CI 1.36~2.65)


・メディエーション分析により収縮期血圧(朝および睡眠中に測定)がOSAとアルブミン尿との関連性を28.3% (95%CI, 14.9~41.7%)を説明した。


・CT90の睡眠時間の累積割合とアルブミン尿との間に有意な関連性なし。

➡これは65歳以上の高齢男性5,995人のアルブミン尿が高いことと有意に相関していると報告したCanalesらの報告と異なる。彼らの調査対象では心血管疾患、高血圧、糖尿病の比率が高かった。




Q. OSAがアルブミン尿と関係する理由は何か?


・OSAがあると➡交感神経系の活性化がおこる。インスリン抵抗性が亢進する。これらと食欲調節機能不全により➡高血圧、糖尿病、肥満に影響する➡これらの悪化がアルブミン尿に関係する。


・OSAにより➡睡眠中に低酸素症と再酸素化の断続的なエピソードを反復➡炎症、血管内皮細胞の損傷を促進する活性酸素種の形成を刺激➡これと先の交感神経活性化により腎尿細管損傷が直接関連している可能性がある。




Q. 本研究の特徴は?


・日本人を対象とした大規模なコミュニティ調査により睡眠呼吸障害、血圧、アルブミン尿の間の関連を評価した最初の研究である。


・対象者は女性が多い(67%)が、OSAで治療が必要と判断された人は、12.4%。




 OSAが、CKDと深く関わっていることを示唆する研究です。OSAに対するCPAP治療が、CKDを改善する報告はありますが、本研究は、OSA―高血圧―CKD初期のつながりを強く示唆するデータです。また、OSAは中年男性に特有と言われてきましたが高齢女性にも少なくないことを示すものです。




参考文献:


1.Kalantar-Zadeh K. et al. Chronic kidney disease. Lancet 2021;398: 786-802. DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(21)00519-5


2. Murase K. et al. Association of sleep-disordered breathing and blood pressure with albuminuria: The Nagahama Study. Ann Am Thorac Soc 2022; 19, 451–461.

Thoracic Society DOI: 10.1513/AnnalsATS.202105-528OC


※無断転載禁止

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