間質性肺炎には、原因、発症の仕方、経過などから多くの種類に分けられています。この分類により新しい薬の治験が実施されてきたという経緯があります。狭い範囲でも確実に効果があるという証拠があれば、次第にすそ野を広げていけるきっかけとなり重要です。
特発性間質性肺炎は全体の総称でありその中に含まれる間質性肺炎は、特発性肺線維症・ 非特異性間質性肺炎・急性間質性肺炎・特発性器質化肺炎・剥離性間質性肺炎・呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患・リンパ球性間質性肺炎、など7種類に分類されています。その中でも大多数を占めているのが特発性肺線維症です。ここでいう特発性とは、正確な原因が決められない、という意味です。
特発性器質化肺炎(COP)は、特発性間質性肺炎の一つですが、かなりの特徴があります。注目されるのは、感染で発症することがあり、その中には新型コロナウィルス感染症も含まれているという点です。近年、抗線維化薬が診療で使用されるようになり、かなりの効果がみられています。特発性器質化肺炎(COP)では通常は、抗線維化薬が選択されることは多くはありません。
難しい特発性器質化肺炎(COP)を分かりやすく解説した総説が掲載されました[1]ので紹介します。著者のTalmage King は、米国でも間質性肺炎の臨床研究の第1人者と言われる人であり、わが国の学会に数回、招聘されています。
Q. 特発性器質化肺炎(COP)の原因は何か?
・組織化肺炎は、特定の原因(例、ウィルス感染、薬物毒性、吸入傷害、放射線療法、また は癌)に起因するか、あるいは特別な臨床状況(例、膠原病など、有害物質の吸引、移植後遺症など)に関連して発生する。
・Covid-19の後遺症として発症することがある。また、インフルエンザ感染など他のウィルス感染症が原因となることがある。
Q. COPの臨床的な問題点とは何か?
・胸部X線写真で細菌性肺炎、ウィルス性肺炎など感染性肺炎と推定される場合で通常の抗生物質治療に反応しない場合、COPが疑われることが多い。
・症状はしばしば亜急性(注:数日間で悪化する急性ではなく、数か月単位の慢性ほど長くはない)であり、数週間から数ヶ月の期間にわたって現れる。
・発症時期は、比較的はっきりしている。発症が不明のまま、ゆっくり悪化することは少ない。
・一般的な症状は、軽度から中等度であり、労作により悪化する。
・乾性咳嗽(乾いた咳)は報告された症例の71%。呼吸困難は62%。
・インフルエンザのような症状(すなわち、鼻づまり、頭痛、悪寒および発汗、喉の痛み、咳、倦怠感、筋肉痛、および発熱)が症例の10〜15%でみられた。発熱は44%に見られた。喀血の発生率は稀(<5%)。
・身体所見で最も一般的な所見は、肺の聴診での吸気性ラ音(ラッセル音)であり全体の60%で聴かれる。バチ状指は稀である(全体の3%以下)。身体所見では5%未満は正常である。注:マジックテープを剥がすときに生ずるような音が聴かれます。
Q. COPをどのように診断するか?
・COPの診断を行うには、一般には臨床的、放射線学的、および病理学的専門知識を組み合わせた検査が必要である。
・血液生化学検査➡炎症マーカーの上昇がある(赤血球沈降速度=血沈)の亢進、CRP高値、白血球数増多など。膠原病を診断するための特異的な検査方法がある。
・肺機能検査:典型的には肺活量が減少する拘束性換気障害を呈し、肺拡散能の低下がみられるがCOPの25%は正常である。治療の効果判定ができる。
・安静時および歩行など運動中で低酸素血症がみられることが多い。
・高解像度のCT画像(HRCT像)が診断の参考になる。左右の肺の片側または両側に起こる。胸膜下および下部肺ゾーンの分布がわずかに優勢。すりガラス状の混濁が見られることがある。細葉構造に一致した直径約8mm程度の結節、またはより小さな結節として見られる場合、気管支や血管周囲の陰影、胸膜に平行または垂直な胸膜下の混濁を伴う線状のパターンなど多彩である。
・病理組織学検査:治療方針を決定するうえで必要とされる場合には肺生検で確認が必要なことがある。
Q. 鑑別が必要な疾患は?
・症状が類似している疾患、類似した胸部CT所見を示す疾患は極めて多い。
・COPと最も類似しているのは市中肺炎である。通常、用いる抗菌剤による治療に反応しないときにはつねに疑わしい。
・その他で鑑別が必要な場合で主なものは以下である。
過敏性肺炎➡既知の原因物質への曝露があるか?
好酸球性肺炎➡血中または肺胞好酸球数の増加がある。
肺胞出血➡喀血がある。
血管炎➡抗好酸球細胞質抗体が陽性。
肺リンパ腫および浸潤性粘液性腺癌➡胸部CT像では類似している。
その他にも鑑別が難しい疾患がある。
Q. 治療をどうするか?
・現在までに前向き無作為による薬物療法の治験成績は発表されていないため経験的に治療されている。
・症状、肺機能検査など生理学的なデータ、胸部CTなどの変化からみた重症度と疾患の進行の速さに依存している。患者の10%未満では自然治癒がみられるが、他方、軽症例や治療に伴う問題点の報告がある。
・基本的にはステロイドの投与が一般的である。
マクロライド系抗生物質の長期投与がステロイド投与の補助治療あるいは代替となる可能性がある。しかし、一般的に効果は低い。
・アザチオプリンあるいはシクロホスファミドは使用しない。
増殖性リンパ球の阻害剤であるミコフェノール酸モフェチルは、COPを含む線維性肺疾患の治療においてステロイドの投薬を減らす目的で使用されることが多い。
Q. 予後は?
・一般的には悪くはない。特に胸部CT所見で淡い陰影を伴う場合にはステロイド薬の治療効果が大きい。人工呼吸器の装着が必要となることは少ない。
・治療の経過で細菌性肺炎を起こし悪化する場合が問題。
Q. 将来の課題はなにか?
・COPの全体像は、まだ解明されていない。
➡ 一次治療薬としてステロイド投与の用量と期間は不明。
➡ 二次治療薬としての免疫抑制療法の有用性は不明である。
・COPの発症と解決の根底 にある細胞および分子メカニズムが不明である。
間質性肺炎は、私たちが診ることが多い疾患であり、近年、増加してきている印象があります。
COPは、特発性間質性肺炎の中に含まれる他の病態と比較すると、むしろ軽症に相当すると思われます。
原因の中で、最近、注目されるのは新型コロナウィルス感染症(Covid-19)に伴う場合です。本論文では、特に触れていませんが急性感染症に伴って発症するという点では、重要です。極めて多数が感染し、おそらく肺病変が残存している方も多いのではないかと思われます。むしろ、Covid-19が多い、この機会にこそ、研究が進み、COPの病変の機序をはっきりさせてほしいと期待しています。
参考文献:
1. King TE. Cryptogenic organizing pneumonia. N Eng.J Med 2022; 386:1058-69. DOI: 10.1056/NEJMra2116777
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