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No.253 タバコとCOPD


2022年5月30日


 5月31日は、「世界禁煙デー」です。厚労省はWHOと協調して禁煙キャンペーンを行っています。厚生労働省、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会、日本看護協会が共同で取り組むことになっています。

呼吸器疾患の中でも特にCOPDは喫煙と古くから密接に関連していることが知られています。英国の呼吸器専門雑誌、Lancet Respiratory Diseaseは、この時期に合わせ、COPDの特集を行っています。その中で禁煙が国民的運動として進められなければ将来的なCOPD発症の予防にならないと強く警告しています。ここでは、掲載された3論文[1-3]の総括としての編集者のまとめを紹介します[4]。




Q. 英国から始まった禁煙運動は?


・日本の医師会に相当するUK Royal College of Physiciansが「喫煙と健康」に関する画期的なレポートの発表したのは60年前である。




Q. タバコとCOPDの関係は?


COPDを構成する慢性気管支炎および肺気腫、現在、喫煙による結果として発症することは確立されている。


・タバコの煙に含まれる有害物質の吸入は、肺の炎症、酸化ストレス、早期老化、および免疫機能障害を引き起こす。これらのプロセスが、気道上皮および血管内皮への損傷、ならびに小さな気道および肺胞の破壊につながる。




Q. 喫煙の影響は?


禁煙の支援は、COPD治療で最も基本となるものである。その効果としてCOPDの症状を改善し、肺機能の低下を軽減し、生存期間を延長する。


・禁煙はCOPDに伴う他の病状が発症または進行するリスクを減らす。ここで云う他の病状とは心血管疾患、悪性腫瘍、メンタルヘルスの問題を指す。特に、メンタルヘルスでは、孤独と社会的孤立の改善理由として喫煙が好まれることがある。


・ただし、タバコの煙だけが吸入時にCOPDの発症を促進する可能性のある有害物質なのではない。また、すべての喫煙者がCOPDを発症するわけではなく、慢性的な気流制限のある人全員が喫煙歴を持っているわけではない。




Q. 疫学からみたタバコ煙の害は?


・論文[2]では、世界のたばこ煙によるCOPDの集団寄与リスクは51%であると述べている。他方、非たばこの因子でCOPD発症に関与する要因は低所得国と中所得国ではより深い影響を与えている可能性がある。


・疫学研究では、COPDの軽症に相当する気流閉塞のある人の約1/4から1/3は喫煙者ではない。その他の有害事象としてバイオマスの煙やその他の形態の屋内および屋外の汚染への曝露、ならびに粉塵、煙霧、および化学物質への職業的曝露が含まれる。


非喫煙者でのCOPDは、気道病変が優勢な表現型(気道病変型)を示す傾向がある。肺気腫が少なく、気流の移動が維持され、一般に、喫煙者のCOPDよりも症状が少なく、併存症が多発することが少ない。


・長期間にわたるコントロール不良の喘息、肺結核、再発性の気道感染症などがCOPDと誤認されて診断されている可能性がある。




Q. 加齢とともに大きくなる喫煙の害は?


・文献[3]では、時間の経過と加齢との相互作用の結果として、COPDが進行していくと述べている。


・喫煙習慣は、家族や仲間の間で受け継がれる習慣であり、健康の不平等を強化するメカニズムである。喫煙する介護者のいる子供は、自分自身が喫煙者である可能性が4倍高くなる。


・しかし、COPDの小児期のルーツは、喫煙に直接さらされただけではない。COPDは、肺が成長するにつれて肺機能が正常域に達しない人で発生する可能性がある。肺の成長は、最初に胎児期、次に生後20年以上にわたり種々の原因で妨げられる可能性があり、その後に低下速度が進むとベースライン以下となりCOPDとなる。

乳幼児初期の有害物質への曝露が、最適な肺の発達の障害を引き起こし、COPD発症に至る可能性がある。(コラムNo.106No.252,参照)




Q. COPD発症に関わる遺伝とは?


・論文 [1]では、COPDの遺伝学を検討し、その遺伝率は40〜50%であると推定している。ゲノムワイドな研究により、何百もの感受性変異体が特定されており、多種の変異体の組み合わせが、肺の成長に関わる遺伝と、さらにタバコの煙や他の大気汚染と並び原因となる可能性がある。


・健康と社会的ケアのシステムでは、それらが持続可能で、世代間の公平性を維持するためには、回避可能な将来の病気を防ぐための措置として禁煙政策を講じる必要がある。


・WHOのたばこの規制に関する枠組み条約を実施するための措置には、たばこ製品の手頃な価格と入手しやすさの低下(課税と販売年齢の引き上げ)、政策立案への影響からたばこ業界を除くすべての形態の広告の禁止、証拠の普遍的な提供の禁止が含まれる。禁煙の基本となる禁煙サポート、禁煙を奨励するメディアキャンペーン、および禁煙法の成立。賠償の一形態として、いわゆる汚染者(タバコ販売会社)負担の原則として、これらの措置に資金を提供するためにたばこ産業の利益に課税することを提唱している。


・COPDの原因と発症の両者が貧困と密接に絡み合っている。たとえば、英国では、2020年のCOPD死亡率は、最も富裕層と比較して、最も恵まれない層では5倍高かった。COPDは構造的暴力の兆候と見なされるべきである。


・しかし、喫煙と健康に関する報告から60年が経過したにもかかわらず、COPD患者の治療としての禁煙療法の実際的な実施は依然として不十分である。




 3つの論文は、COPDの撲滅のために、さまざまな社会的分野、特に貧困削減と持続可能なエネルギー、農業、輸送を通じてきれいな空気を届ける政策の重要性を強調しています。かつて、農業は大気汚染とは無縁であり、空気がきれいな状態での産業と言われてきましたが最近の論文では、工業環境と同じか、それよりも悪化していると警告を発する論文がみられています。

喫煙習慣は、「健康被害をもたらす依然として差し迫った共通の問題」であり、「全ての臨床医は、喫煙するCOPDの人々がエビデンスに基づく禁煙支援の普遍的な提供を受けることを確実にするために、迅速に行動しなければならない」。コロナ禍の中で、分断が進み、互いに健康に注意し合う状況が失われたせいか肥満と喫煙者の増加をみるようになりました。


5月31日の「世界禁煙デー」は、全ての人が自分の健康を守るために、改めて意識するためにも大切な記念日であると思われます。




参考文献:


1. Cho MH, et al. Genetics of chronic obstructive pulmonary disease: understanding the pathobiology and heterogeneity of a complex disorder. Lancet Respir Med 2022; published online April 12. https://doi.org/10.1016/S2213-2600 (21)00510-5.


2. Yang IA, et al. Chronic obstructive pulmonary disease in never-smokers: risk factors, pathogenesis, and implications for prevention and treatment.

Lancet Respir Med 2022; published online April 12. https://doi.org/10.1016/S2213-2600 (21)00506-3.


3. Agustí A. et al. Pathogenesis of chronic obstructive pulmonary disease: understanding the contributions of gene–environment interactions across the lifespan.

Lancet Respir Med 2022; published online April 12. https://doi.org/10.1016/S2213-2600 (21)00555-5.


4. Hopkinson NS. COPD, smoking, and social justice. Lancet Resp 2022; vol 10, 428-430.


※無断転載禁止

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