2022年7月2日
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は、2022年6月29日現在、国内で931万人以上に達しています。うち、死者は約3万人です。数字だけをみれば、死者は3%ですが、回復者の中で相当数の後遺症の人がいると思われます。私たちも診る機会が増えてきました。
当初は、急性期の症状や治療に関する研究論文が多数を占めていました。急性期の症状が回復、改善してもなお、長期にわたり不快な症状が持続し、日常生活に不自由を感じている人が多いこともすでに判明しており、これに関連する多数の論文が発表されています。
ここでは、COVID-19の急性期を過ぎたあとも症状が続き困っている方に対し、現在、どのように考えられているかをまとめた論文[1]の概略にふれ、次いで米国国立衛生研究所(NIH)の臨床センターが報告した新しい論文 [2]を紹介します。なお、コロナ後遺症についてはコラムNo.233でも触れています。
Q. COVID-19の回復段階とは何か?
米国疾病予防管理センター(CDC)および世界保健機関(WHO)は以下の提言を行っている。
・急性COVID-19 ➡ 症状、発病後最大4週間。
・long COVID-19, 慢性COVID-19 ➡ 急性期の間に発生し、2カ月間以上(つまり、発病から3か月間以上)続くさまざまな症状(身体的、精神的)、および症状が集中して起こる(症状クラスター)は患者の生活に影響を及ぼす。他の代わりの病態では説明がつかない。
Q. COVID-19後遺症の症状の種類と頻度は?
・倦怠感(13〜87%)
・呼吸困難(10〜71%)
・胸の痛みまたは緊張感(12〜44%)
・咳(17〜34%)
・あまり一般的ではないが持続性の身体的症状には、無嗅覚症、関節痛、頭痛、乾燥症症候群、鼻炎、味覚 異常、食欲不振、めまい(起立性低血圧、姿勢頻脈)、筋肉痛、不眠症、脱毛症、発汗、および下痢がある。
Q. 心理的あるいは認知機能の問題とは?
・心理的または認知的な愁訴は、急性COVID-19からの回復中にも一般的であり、インフルエンザなど同様の感染症から回復する場合よりも共通に見られる可能性がある。
・入院を必要とするような重症例では退院した患者100人を対象としたある研究では、24%がPTSD(心的外傷後ストレス障害)を報告し、18%が記憶障害を抱え、16%が集中力の悪化問題を抱えていた。集中治療室(ICU)に入院した患者では頻度が高かった。
・他の研究では、COVID-19生存者のほぼ半数が生活の質の悪化を報告し、22%が不安・うつ病を患っていた。患者の23%が3ヶ月で持続的な心理的症状を持っていることが判明した。
・ICU生存者の中で、別の研究では、不安が23%、うつ病が18%、心的外傷後症状が7%であると報告されている。
Q. COVID-19から回復後の日常生活の問題点?
・在宅医療サービスにもかかわらず、自宅に退院した約1,300人の入院COVID-19患者を対象とした1つの後ろ向き研究では、30日で日常生活動作(ADL)のすべてで独立した患者はわずか40%であり、残りの60%が問題を抱えていた。
・別の研究では、患者のほぼ40%が退院後60日で通常の活動に戻ることができなかった。
・ COVID-19で入院した219人の患者を対象とした別の研究では、53%が4か月目で機能障害があった。
・最重症のCOVID-19の患者で、集中治療室での人工呼吸の治療後では、6か月目での障害率は COVID-19に関連しない他の原因による重症患者のそれと変わらない。
Q. 軽症症状の経過は?
・発熱、悪寒、嗅覚・味覚の症状は通常2〜4週間以内 に解消するが、倦怠感、呼吸困難、胸部圧迫感、認知障害、心理的影響は数か月(たとえば2〜12か月)続く場合がある。
・呼吸困難 ➡ COVID-19による呼吸困難の患者では、息切れが持続する可能性があり、ほとんどの患者で2~3ヶ月かけてゆっくりと解消するが、場合によってはそれより長くなる(たとえば、最大12ヶ月)。
・慢性咳嗽 ➡ いくつかの研究では、多くの患者では初期症状の2〜3週間後に持続性の咳を経験した。咳は大多数の患者で3か月までに解消し、12か月まで持続することは少なかった。
・胸部の不快感 ➡ COVID-19の患者では、胸部の不快感は一般的であり、ゆっくりと解消する可能性がある。胸部の不快感は、急性COVID-19感染後約2〜3か月で患者の12〜22%に持続し、それより長くなることは少ない。
・ 味覚と嗅覚の変化 ➡ いくつかの研究では、COVID-19患者の嗅覚および味覚症状の回復が調べられている。それらの研究では症状がより長く持続したが、大多数は急性疾患後 1ヶ月で完全またはほぼ完全に回復した。嗅覚減退症、嗅覚障害は女性の患者の回復は男性より遅れる傾向がある。
・神経認知症状 ➡ 退院後のCOVID-19患者では集中力と記憶力の問題が6週間以上続くことを示唆している。
・ 心理的変化 ➡ 観察研究によると、急性COVID-19感染後、心理的症状(不安、うつ病、PTSDなど)が一般的にみられ、不安が最も一般的である。一般に、心理的症状は時間の経過とともに改善するが、生存者の追跡調査で6か月以上続く場合があった。入院した人では、持続的な心理的症状のリスクが高い可能性がある。
Q. 問題となる循環器症状、呼吸器症状が持続する場合は?
・ 進行中の呼吸困難(安静時および労作時)、咳、胸痛、胸膜炎の痛み、および喘鳴が問題となることがある。
・起座呼吸、胸痛(運動性、体位性)、末梢性浮腫、動悸、めまい、起立性低血圧、失神前または失神の有無。
Q. 推奨されている検査項目は?
以下の組み合わせが必要である。
・胸部レントゲン像、心電図。血液検査。
・精密な肺機能検査、胸部CT, 心臓超音波検査、6分間平地歩行テスト、ホルター心電図
Q. COVID-19の後遺症に関する詳しい臨床データの報告は?
米国NIHから最近、詳しいCOVID-19の後遺症(PASC)のデータが報告された[2]。
最近では、他の論文もほぼPASC (postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection: SARS-CoV-2 急性感染後後遺症)と呼んでいる。
研究対象:
・COVID-19の189人(そのうちの12%は急性疾患の間に入院した)と120人の非感染者(抗体陰性対照参加者)を登録し、詳しい検査を実施した。
身体検査、臨床検査と質問票、認知機能検査、心肺評価など、症状の有無に関係なく、すべての参加者が同じ評価を受けた。また、一部の患者では探索的研究として詳しい免疫学的およびウイルス学的評価を行った。
研究結果:
・PASCと一致する症状は、COVID-19群では55%、対照群の13%にみられた。
・PASCのリスクの増加は、女性および不安障害の病歴のある女性で認められた。
・PASCの定義を満たす所見のある参加者は、標準化されたテストで生活の質(QOL)が低いと報告した。身体検査および診断検査での異常な所見はまれであった。
・スパイクタンパク質に対する中和抗体レベルは、ワクチン未接種のCOVID-19コホートの27%で陰性であり、ワクチン接種されたCOVID-19コホートのいずれでも陰性であった。
・探索的研究では、PASCの参加者に持続的なウイルス感染、自己免疫、また
は異常な免疫活性化の証拠は見つけられなかった。
結論:
・COVID-19感染後の人には、持続的な症状の高い負担が見られた。
広範な診断評価では、報告された症状に対する特定の原因は明らかではなかった。
COVID-19以降、血液中の抗体レベルは大きく変動した。
COVID-19の症状の種類は多く、複雑ですが多くの調査結果はほぼ一致しています。ほとんどが緩やかに回復していくようですがリハビリテーションのプランを提示している論文もあります。
呼吸器内科で多い受診理由は、COVID-19が治ったあと咳が続く、息切れが強くなった、ことなどです。基礎疾患として喘息、COPDや間質性肺炎があり、COVID-19の経験した人の中には元の喘息、COPD、間質性肺炎が「増悪」して咳、息切れが強くなる場合がしばしばあります。文献でも報告がありますが、これらの場合は基礎疾患の治療の見直しで症状が改善する場合があります。
COVID-19の後遺症は、現時点では、明確な原因、治療法は解明されていませんが周辺から徐々に問題点が解明されてきています。希望を持ちましょう。
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