2023年2月20日
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は、すべての年齢層に見られますが65歳以上の高齢者でコロナ後遺症が多く、しかも深刻であると報告されています。
コロナ後遺症は、ネット情報などで「long COVID(ロングコビット)」とも呼ばれており多くの情報があります。しかし、高齢者に限ったlong COVIDの報告は限られており、しかも報告の内容は多彩です。
ここで紹介する論文[1]は、すでに報告されている多くの論文を再解析して高齢者に特有なコロナ後遺症の問題点を明らかにしようとしたものです。
Q. 高齢者のコロナ後遺症の問題点は?
・新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は高齢者の慢性疾患を悪化させる可能性がある。これらの慢性疾患には、心血管病変(心筋梗塞、心不全など)、呼吸器疾患(COPD、間質性肺炎など)、脳神経変性状態(アルツハイマー病など)、フレイルと呼ばれる四肢の筋力低下などの機能低下などがある。
・社会的問題として高齢者では新型コロナ流行期に入ってからは外出制限などで高齢者の社会的交友関係が減少するようになった。その中で、パンデミックで配偶者や親しい人を失うことによる精神的なショックが、肉体的な衰退の一因となっている。
・高齢者介護施設では自由に親しい人との面会が制限される結果も問題である。フレイルの増加だけでなく、高齢者では慢性疾患が共存しているのでコロナ発症前から持続する症状と区別しながら多面的な評価と治療管理を見直す必要ある。すなわち、もとの慢性疾患が悪化しているにも関わらず、これらを簡単にコロナ後遺症と決めつけてはならない。
Q. ロングコビットとは何か?
・ほとんどの人は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)から完全に回復するが一部は、中期的あるいは長期的に広範囲な影響を残す。長期コビットはコロナ後の状態、またはコロナの急性後遺症としても知られる。
・WHOの定義は、「SARS-CoV-2(新型コロナウィルスの正式な名称)感染の可能性がある人、または感染が確認された病歴があり、通常はコロナの発症から3カ月間経ても症状が少なくとも2カ月間以上続き、他の疾患では説明できない場合」を長期コビットとしている。
・一般的な症状は、倦怠感、息切れ、認知機能障害がある。他の症状の場合もありこれらは日常生活に影響する。症状は急性コロナのあとも持続するか、最初の回復後に新たに発症する可能性がある。時間経過で症状が変化する場合、再発する場合もある。
Q. ロングコロナの問題点は?
・ロングコロナでは、一般的な健康状態や福祉関係に問題を生ずる。心血管、呼吸器、神経、メンタルヘルスなどさまざまな領域に影響を与える可能性がある。これらは独立して起こるのでなく互いに影響を与える可能性がある。
・原因は、新しいコロナウィルス変異体、ワクチン接種の効果などが推測されているが不確実性が残っている。
・重症コロナ感染者で多いが軽症感染でも起こる可能性がある。
・コロナ発症後から2週間後の段階でみられ、発症前の健康状態に戻らないものは、文献レビューでは55種の長期的な症状が報告されている。
・コロナ罹患者では80%以上で以下の5大症状のどれかに当てはまることが多い。
ロングコビットの5大症状とその発症頻度は、倦怠感58%、頭痛44%、注意力散漫27%, 脱毛25%、呼吸困難24%であった。
・他の症状では、呼吸器関連(咳、胸部不快感、睡眠障害、間質性肺炎)、心血管関連(不整脈、心筋炎)、神経学的関連(認知症、耳鳴りや夜間発汗など非特異的な症状)であり、このような症状は17~87歳までの広い範囲にわたっており、年齢別特徴はみられなかった。
Q. 加齢とともに増加するロングコビットとは?
・高齢者ではコロナ感染のリスクが高く、重症化リスクが高い。
・65歳以上で入院治療となったコロナ患者279例では9%にロングコビットがみられた。90日目の段階で多かった症状は、倦怠感8.9%、 咳4.3%、息切れ1.6%であった。
・米国で電子健康記録では70歳まではロングコビットは増加し続け、それ以降は急速に減少した。これは、これ以上の年齢では他の疾患との重複症状があり、判別できなかったためとされている。
・米国でのコホート研究で65歳以上群とそれ以外の群との比較では高齢群でのリスク上昇は以下の通りであった。
呼吸不全のリスク7.55倍、倦怠感5.66倍、高血圧4.43倍、記憶障害2.03倍、腎障害2.59倍、認知機能障害2.50倍、血液凝固能障害2.50倍、不整脈2.19倍。
・性差を調べた研究では、コロナ感染で急性の重症症状は男性に多く、ロングコビットは女性に多いという報告がある。
Q. ロングコビットに関わる要因は何か?
・高齢者のデータは不足している。
・機能障害を起こす可能性では➡ 身体的な問題点とのリンク(免疫系、自律神経系、視床下部―下垂体軸、ミトコンドリア機能)、認知機能とのリンク(身体信号の処理および知覚、中枢感作、心理的な適応)の両方の可能性がある。
・慢性疲労症候群、他の機能性身体障害との明らかな重複症状がある。
息切れ、倦怠感は高齢者に多い症状である。慢性疲労症候群の症状に似ている。
・他のウィルス感染症の感染後の症状と類似している。エプスタインバーウィルス(腺熱)、コクシエラバーネティ(Q熱)、ロスリバーウィルス(流行性多発性関節炎)に感染してから6か月以上、少数の患者での報告と類似している。
Q. 高齢者におけるワクチン接種、治療薬効果との関連性は?
・ワクチン接種群(1回あるいは2回群)では、入院例が減少、5症状以上の症状が持続する可能性が減少していた。
・高齢者では、ワクチン接種者の方がロングコビットとなる頻度が少ない。
ただし、現在までの報告論文では、高齢者だけを条件別に解析したデータは乏しく、統計処理によって推定しているものが多い。
Q. 結論として高齢者のロングコビットで判明していることは?
・高齢者ではロングコビットの病因は多因子である。
・ロングコビットは個人差が大きく、影響する健康関連の問題点は多く、複雑である。
・既存の疾患と絡み、ロングコロナが健康上の負担増を示す可能性ある。
・特に糖尿病、心血管病変を悪化させる可能性がある。
・ワクチン接種はロングコビットの影響を減らすことができる。特に高齢者施設居住者に効果的である。
新型コロナウィルス感染症は、第8波の現在、新規発症例が減少し、終息に近づいている印象がありますが高齢者では、感染後の死亡率が高い状態が持続しています。インフルエンザ感染のときもそうでしたが、インフルエンザの急性症状が治まり、治癒に近いと判断された後になって細菌性肺炎の合併があり、重症化し、死亡する例を多く診てきました。日常の活動性や栄養状態が低下した方で特にリスクが高いと思われます。
統計データではワクチン効果は確実にみられるようです。予防こそが最大の治療というべきでしょう。
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