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No.274 中高年の喘息治療:問題となる循環器疾患の合併


2023年3月16日


 近年、喘息の治療は急速に進歩してきました。特に吸入ステロイド薬が広く治療で使われるようになり、重症の発作で死亡に至る喘息死は大幅に減少してきました(コラムNo.27, 参照)。

 喘息は、幼児期から高齢者に至る全年齢層にみられる疾患です。喘息は世界で3億人の患者数といわれ、2025年までにさらに増加し、4億人に達すると予想されています。また、毎年、25万人が喘息関連の状態で死亡していますが大多数は、死亡を回避できる状態である、と推定されています。現在でも途上国や、米国でも貧困層には深刻な病気であることは変わりません。

 最近になり注目を集めているのが中高年の喘息で狭心症や心筋梗塞の多いことです。高血圧が共通の問題点と言われています。高血圧(140mmHg以上)は、全世界で8億7,400万人といわれ、きわめてありふれた慢性疾患の一つです。


喘息と喘息以外の病気が合併することは、私たちが診ている患者さんの中にもたくさんいます。喘息の治療と同時に心血管病変が重症化することがないようにしなければなりません。両者には発症の基礎的な機序で共通点があることも近年になり判明してきました。

すなわち、喘息と心血管病変は、相互に関係しあっていることが臨床研究、基礎研究の成果から明らかになってきました。


 ここでは、フィンランドで行われた広範な患者アンケートを治療した疫学的な研究から、喘息が多種の合併症を起こしやすいという実態を紹介し[1]、次いで、合併症の中でも問題となってきた喘息と高血圧が重なり合う場合の問題点を論じた論文を紹介します[2]。




Q. 喘息の経過中の問題点は何か?


中高年の喘息では呼吸器疾患以外の非呼吸器疾患の合併の頻度が高く、しかも相互に悪化し合う理由が近年になり、臨床的、基礎的な研究から解明されてきた。




Q. フィンランドの疫学研究とは何か?


・2016年、フィンランド、スウェーデンの研究グループにより実施された。

・対象は、20~69歳までの健康人を含む計16,000人にアンケート調査を実施した。

・喘息の診断は医師が喘息と診断した場合とした。

・喘息の発症時期について次の3グループに分類した。

 若年期発症型:0~11歳までに発症した。

 中間期発症型:12~39歳までに発症した。

 後期発症型:40~69歳までに発症した。


・結果:回収率は51.5% (8,199人)。うち、喘息は842人(10.3%)。年齢、性別を補正して比較した。

 若年発症型では逆流性食道炎の合併が多かった。喘息なしと比較してオッズ比=1.93, P=0.011。

 中間期型、後期発症型では骨粗しょう症の合併が多い(喘息がない場合を1とするとオッズ比は前者が3.45, 後者は2.91、p<0.001)。

 さらに中間期型および後期発症型で多い合併症は、逆流性食道炎、鬱傾向、睡眠時無呼吸症候群、苦しい状態(painful condition),肥満が喘息なしの同年齢者と比較して多い。


・不安、パニック症は中間期発症群で多い。

後期発症群では、高血圧、重症の心血管病変、不整脈、糖尿病の併存が多い。

・年齢補正を行うと、呼吸器以外の疾病を有する割合は、中間期発症群、後期発症群を喘息なし群と比較すると、それぞれ、12.1%, 36.2%, 10.4% (p<0.001)であった




Q. 高血圧と喘息の関係について?


・高血圧と喘息は共存しやすい。その理由は、遺伝素因、ストレス、加齢など共通する疾病素因、食事、ライフスタイル、共通する全身性炎症性病変という共通点がある。


・重症喘息では肺機能検査の1秒量(FEV1)の低下が起こるが高血圧では一般的にFEV1が低値であるというデータがある。




Q. 喘息にみられる気道炎症とは?


・炎症性病変のマーカーである高感度CRPはIL-6に関係する。IL-6は喘息発症と関わっている。


・喘息の一部は、アレルギー性炎症という点からT-細胞、自然リンパ球、サイトカインの違いからTh2-highとTh2-low に分類されている➡Th2の変化が関わる喘息は全体の半数に達する。




Q. Th2-low型の喘息の特徴は?


 以下は主に文献[2]による情報である。

・Th2-low型の炎症に分類される喘息は高齢者喘息、中高年発症喘息に多く、共通点は、BMI上昇の肥満に関係することが多い。アトピー性皮膚炎に関係せず。27%に高血圧がある。これに対するTh2-highでは高血圧合併頻度は9%である。

➡すなわちTh2-low型の炎症病変が喘息+高血圧という病態を作りだしている可能性があることからTh2-low inflammation endotypeと分類することもある。

➡このような型の喘息では、気道過敏性亢進があり、気道壁の平滑筋の肥大、増生があり、気道の構造変化としてリモデリングを起こしている可能性がある。

➡すなわち高血圧と喘息が共存する場合の機序として気道の慢性炎症病変の存在が、

血管壁の調節異常を来し、これが高血圧を起こしている可能性がある。(図)


図:高血圧がある喘息でみられる病態の変化

出典: Christiansen SC. et al. N Engl J Med 2019;381:1046-57.を邦訳修正



 

 喘息症状は気道が、時々、狭くなり、このために空気が通りにくくなり、咳や息切れを起こすことが知られています。多様な喘息のタイプが知られていますが、特にTh2-highの病変では、慢性炎症病変を抑え、喘息を安定させる効果的な薬剤が多種、使われるようになっています。気道炎症は生体内では、広く血管にも影響を及ぼしている可能性があります。

論文1は、現在、治療を受けている喘息の人たちを合併症という点からその頻度や特徴を明らかにしました。論文2では、高血圧、喘息という点から両者に共通する機序、関わり合いを明らかにしています。長期の治療では併存する慢性疾患への目配りがつねに必要であることをこれらの論文は教えてくれます。




参考文献:

1.Honkamäki J et al. Nonrespiratory diseases in adults without and with asthma by age at asthma diagnosis. J Allergy Clin Immunol Pract

2023 Honkamäki J. Feb;11(2):555-563.e4. doi: 10.1016/j.jaip.2022.10.024. Epub 2022 Nov 2


2.Christiansen SC. et al. Treatment of hypertension in patients with asthma. N Engl J Med 2019;381:1046-57.

DOI: 10.1056/NEJMra1800345

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