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No.278 家族性に発症する間質性肺炎とは何か?

2023年5月25日


 間質性肺炎は、肺に広範な炎症性病変が進み、肺組織が次第に固くなり酸素の取り込みが低下していく治療が難しい疾患として知られてきました。

間質性肺炎は、「肺炎」の名称がついていますが抗生物質で治る細菌性の肺炎とは、区別され、多くの呼吸器疾患の中でも治療が難しい病気の一つです。近年、詳細な発症の仕組みは明らかになってきました。近年になり抗線維化薬と呼ばれる治療薬が使われるようになり希望が見えるようになりました。

間質性肺炎は、複雑に分類されています。その中で最近、注目されているのが家族性に発症する間質性肺炎です。1950年、一卵性双生児の姉妹に発症した症例が初めて報告されて以来、間質性肺炎の発症に遺伝子が関係するのではないか、という仮説は多くの研究者が持つ疑問点でした。家族性に発症する間質性肺炎に注目した論文があります。ここでは、その概要を解説した編集者のコメントとともに解説します。 [1,2]。




Q. 家族性間質性肺炎の注目度とは?


・肺に広範な線維化病変を起こす間質性肺疾患(ILD)は、「家族性」と「散発性」に分類されることがある。


・近年の研究では、ILDの約1/5、特発性肺線維症(IPF)と分類される症例の約1/5が家族性に発症すると報告されている。


・一般にILDは、病気の遺伝性素因をもつ人が、喫煙など何らかの環境暴露が加わり発症すると考えられてきた。しかし、一部では遺伝的な関与が大きいことが注目されている。




Q.間質性肺炎の発症に関わる遺伝子研究の現状は?


・一般的な遺伝的な変異の結果、患者である宿主防御および細胞学的に重要性が明らかになってきたのはテロメアの維持、紡錘体アセンブリ、TGF-βシグナル伝達などである。


・MUC35705950Bプロモータ多型にみられる変異体の一つであるrs4は特に間質性肺炎の発症リスクを高めることが知られている。この部位のT対立遺伝子の異常があるとリスクは約5倍となる。ヨーロッパ人ではマイナー対立遺伝子の異常が35%にみられる。ヨーロッパ人のIPFでは1~6%にみられるがアフリカ人、アジア人では頻度は低い。


・家族性肺線維症に関わる遺伝子変異も一部ではあるが明らかになってきた。テロメア関連遺伝子、サーファクタント遺伝子でみられる稀な遺伝子変異体が知られている。




Q.家族性間質性肺炎の遺伝子研究での発見とは?


・以下の3家系を含む569家系にみられた家族性間質性肺炎の遺伝子検索を実施した。対照群は間質性肺炎がない大腸がんの151例である。


図1 詳しい遺伝子検査を実施し、家族性間質性肺炎と判明した家系

出典:Liu Q. et al. Am J Respir Crit Care Med 2023; 207: 1345–1357.より邦訳修正


 本研究によって、遺伝的な背景が濃厚な家族集団について新しい遺伝子レベルの発見があった。


・家系における遺伝リスクの14.9~23.4%はこれまでに発表されてきた遺伝的には稀な変異(RV)が間質性肺炎の発症に関係していることが判明した。主にテロメア関連遺伝子であり、肺の組織の中では平滑筋細胞、II型肺胞上皮細胞、内皮細胞でRVが濃縮された形で存在しており、間質性肺炎のスタートがこれらの細胞にあるミトコンドリアDNAの異常を含む異常であることが推定された。




 本研究では、多くの研究施設の協力により得られた家族性間質性肺炎の発症に関わる、具体的な道筋が明らかになりました。膨大なデータ解析ですが、新しく得られた遺伝子異常の発見は、わずかであり、これまで断片的に知られてきた結果を裏付ける発見となっています。

 遺伝的な背景はあるが、弱く作用している可能性も指摘され、喫煙習慣や、大気汚染など有害な物質が発症原因に寄与している可能性がさらに強まったとも言えます。

今後は、個別的な生活習慣の解析結果が判明すれば、リスクの高い人たちへの臨床的な具体的なアドバイスを行うことができるようになりそうです。




参考文献:


1.Allen RJ. Using families to study pulmonary fibrosis genetics. Am J Resp Crit Care Med 2023; 207: 1264-1265.

Originally Published in Press as DOI: 10.1164/rccm.202301-0098ED on February 15, 2023.


2. Liu Q. et al. The genetic landscape of familial pulmonary fibrosis. Am J Respir Crit Care Med 2023; 207: 1345–1357.

Originally Published in Press as DOI: 10.1164/rccm.202204-0781OC on January 9, 2023


※無断転載禁止

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