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No.285 新型コロナウィルス感染症後にみられる間質性肺炎とは?

2023年10月3日


新型コロナウィルスによる肺の感染症で入院治療が必要となる重症呼吸窮迫症候群(ARDS)となった患者数は全世界で約6億人と言われています。

 重症のウィルス感染がきっかけで間質性肺炎を起こすことは、HIV、サイトメガロウィルス、Epstein-Barrウィルス感染症でも知られています。

 新型コロナウィルス感染後に、脳の霧(brain fog)といわれる状態や、息切れ、胸痛、動悸など多彩な後遺症がみられることはすでに多くの報告があり、PACSと呼ばれています(コラム、新型コロナの項、参照)。PACSは軽症であっても肺に病変を起こす場合があり、間質性肺炎、気管支喘息、COPD, 気管支拡張症などを発症する可能性が知られています


 PACSの中で間質性肺炎は、感染12か月後に29%に認められ、40%は、酸素の取り込みの障害を起こす肺拡散能の低下がみられるという報告があります。さらに新型コロナウィルス感染が軽症で経過したのに間質性肺炎を起こす場合があることも知られています。

PACSにみられる間質性肺炎の治療は経験的にステロイド薬により治療されていますが、診断や治療後の予後を簡便に診断し、予測する血液マーカーがあれば便利です。

ここでは、これを検討した論文[1]と編集者のコメント[2]を紹介し、ARDSの発症後の問題点[3]について解説します。




Q.本研究の目的は?


・PACSの場合の間質性肺炎を診断、治療経過を予測するための血液マーカーを探す。それも従来使われてきた間質性肺炎の診断の血液マーカーとは異なる新しい視点でしかも簡便に診断する血液検査法を探すことが目的である。

・マーカーは従来、間質性肺炎の診断に使われたものではなく間質性肺炎の機序に関わるものを選択した➡MMP-1、MMP-7、 ペリオスチン(periostin)、VEGFである。

 これら血液マーカーと肺機能検査、胸部CT検査を実施した。




Q.研究方法は?


・スペイン、5か所の病院の共同研究。COVID-19の経過により入院が必要であった重症例を対象とした。対象例は以下の2群に分類した。

・Group 1:入院治療を実施。軽度で治療は酸素吸入を実施した。

 Group 2:入院治療を実施。重症で人工呼吸器を使用した。




Q. 結果は?


・COVID-19の治療が終了し、退院となった計481例を対象。退院2か月目、12か月目に検査を実施。両者の検査終了は、最終的に135人となった。


・Group 1: 94人、平均年齢:59歳、男性58.5%、非喫煙者 60.6%、

Group 2: 41人、平均年齢:65歳、男性68.3%、非喫煙者 65.9%

両群間に呼吸器疾患、高血圧、糖尿病、心血管疾患などの併存症の頻度、重症度に差なし。

・平均入院期間:Group 1:9.6日間、Group 2:29.5日。

・両群を合わせて退院後、2か月目と12か月のデータの比較では、肺機能検査で両群間に統計的な有意差があったものうち、肺活量予測値、1秒量予測値、肺拡散能予測値ではいずれも12か月目では有意に改善していた。

2か月目でCT所見が正常は46.7%➡12か月目では正常は63.5%に増加。

・しかし、CT所見で線維化は、2か月目は25%➡12か月目では29.4%に増加。他方、すりガラス陰影は43.9%➡24.6%。初期病変であったすりガラス陰影が線維化病変へ移行したと考えられる。


・血液マーカーでGroup 1とGroup 2の間で有意差があったものは、ペリオスチンとMMP-7でいずれもGroup 2が増加していた。

2か月目と12か月目の比較では後者では4項目とも差異なし。


線維化病変に至る可能性のあるマーカー(ペリオスチン、MMP-1、MMP-7、VEGF、年齢、重症度、性差)を入れた多変量解析では統計的な有意差を呈したものはペリオスチン、年齢、重症度の3項目だけであった。




Q. 経過で間質性肺炎の可能性のある場合は?


・135人中の37人が相当した。全体の27.4%




Q. 結果をどう考えるか?


・入院治療が必要なCOVID-19でARDSの診断名がついた場合はその後の経過で約1/4の症例が間質性肺炎に至る可能性がある

・ぺリオスチンは、理論的にも有望な血液マーカーであるが、肺拡散能検査を入れた精密な肺機能検査および胸部CTが、現時点では間質性肺炎としてのフォローアップ目的に適している




Q. ARDSの予後は?


ARDSは、呼吸器疾患の中でも最重症となる疾患であり、集中治療室などで人工呼吸器を装着した治療が実施される。

Herridge ら[1]、カナダの研究者グループは、109人のARDSを3、6、12か月後、2、3、4、5年後までの長期にわたり身体活動度など身体所見や、精神的な変化を追跡調査した。

若年者では、元にレベルに戻る可能性が高いが高齢者では回復が遅延する。若年者、高齢者の両群ともに身体能力は、5年後には元のレベルには回復していなかった。他の精神的な問題点の回復も遅れ、その結果、ケアに関わる家族の負担が大きくなり、また医療費負担も増える。肺機能検査ではかなりの回復がみられた




最重症となった新型コロナウィルス感染症が、その後にどのように経過するかは、重要な問題点です。5類に変更された後でも、入院治療が必要な患者数はかなりになっています。本研究では、入院による治療が必要な重症例ではその後、かなりの高率で間質性肺炎へ移行していくことが判明しました。軽症でも間質性肺炎に至る可能性があり注目される結果です。間質性肺炎は肺がんを合併するリスクが高いことが知られています。新型コロナ感染症のパンデミックの影響として将来、肺がんの発症が増加するのではないか、と懸念する論文があります。


ARDSに近い治療を必要とした新型コロナ感染症の重症例では、回復後に日常生活レベルが低下した状態が持続する可能性が高い可能性があります。重症例の重点的な治療よりも感染予防を徹底させる必要があるのはこの理由です。新型コロナ感染症によるARDSで入院した場合に将来、間質性肺炎に変化する可能性があるかについての予測は血液マーカーでは現時点では十分にはできないことが判明しました。



参考文献:


1.Bailey JI. The pandemic within the pandemic: predicting pulmonary fibrosis after COVID-19.

Am J Respir Cell Mol Biol 2023; 69: 253-254.


2.Mulet A, et al. Biomarkers of fibrosis in patients with COVID-19 one year after hospital discharge: a prospective cohort study. Am J Respir Cell Mol Biol 2023; 69:321–327.


3. Herridge MS. et al. Functional disability 5 years after acute respiratory distress syndrome.

N Eng J Med 2011; 364:1293-1304.


※無断転載禁止

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