2020年3月7日
COPD (慢性閉塞性肺疾患;肺気腫、慢性気管支炎)は、全身性の疾患と言われています。多数のCOPDの患者さんの経過をみると肺以外の合併症を持つ人が多いこと、増悪を起こすときに合併症が原因となること、さらに死因統計では合併症が原因で死亡することが多いことが理由です。
合併症の多くは実はCOPDの発症機序と共通点を持っていることが多く、COPDが原因ではなく、同じ機序で起こった他の疾患と共存しているという理由から併存症と呼ばれています。
GOLD2020 [1]は、国際的な専門家グループが作成した最新のCOPDの「レポート」ですが、この中でCOPDの併存症を列挙し、問題点を指摘しています。
内容はかなり専門的ですが本コラムはたくさんの、医学部学生、医師、看護師、理学療法士など医療職にある方が読んでくださっているのであえてここで解説することにします。
Q. COPDの併存症の意味?
・予後に関係するものと、必ずしも関係しないものがある。
・COPDの発症機序は必ずしも明確になっていないので併存症の解析が機序解明につながる可能性がある。
・併存症は予後や、COPDの存在下での活動性にも関係する。
・併存症の症状が過小評価されることがあり治療経過では注意する必要がある。息切れが心不全、肺がん、うつ病による可能性などである。
・COPDは、しばしば他の疾患と併存する。これが経過に大きく影響する。
・COPDがあると云う理由でCOPDの治療を変更する必要はない。また、併存症の治療はCOPDのあるなしに拘わらず積極的に実施していく。
・COPDでは肺がんはしばしば、重要な死亡原因となりうる。
・心血管疾患は、通常に認められる重要な併存症である。
・COPDに伴う骨粗鬆症、うつ病は未診断のことが多い。QOLや予後に関係する。
・胃食道逆流症(GERD)は、COPDの増悪原因となりQOL低下に関係する。
・COPDの長期治療では、治療内容はなるべく単純化するのがよい。多種の投薬を避け、最低限度とする。
さらに以下にCOPDと個別的に関係する問題点を記します。
Q. 特に重要な心血管疾患とCOPDの併存
・併存頻度が高く、その確認は重要である。心血管疾患との関係で確認すべき点は以下の5項目である。
虚血性心疾患がないか。
心不全ではないか。
不整脈はないか。
閉塞性動脈硬化症のような末梢動脈疾患はないか。
高血圧はないか。
以下にさらに各疾患が併存する場合を示します。
Q. 心不全の併存
・COPDとの併存頻度は20-70%である。年間の発症頻度は3-4%。心不全の発症は死亡原因となるので重要である。
・COPD増悪に伴い心不全が起ることがある。
・COPDの増悪で40%は高二酸化炭素血症がある理由で人工呼吸器が装着されるが同時に左室機能障害を伴うことが多い。この時、非侵襲性換気療法を併用すると心不全に対しても効果的である。
・COPDが併存するとしても慢性に経過する心不全の治療は標準治療でよいが心臓選択性β1-ブロッカーを使用する。
Q. 虚血性心疾患
・COPDが増悪を起こした後、30日以内に心筋梗塞を起こす頻度が高い。
・急性心筋梗塞のバイオマーカーであるトロポニン-TがCOPDで高めのことがある。
Q. 不整脈
・COPDの発症と密接な関係がある。
・心房細動の発症と1秒量低下が関係することがある。
・心房細動があるとCOPDの息切れはさらに強くなり、増悪の頻度が高くなる。
・心房細動とCOPDが併存していても心房細動の治療は特に変える必要はない。
・COPDの治療薬として使用される吸入薬して使われる気管支拡張薬が不整脈の原因となることがある。
Q. 閉塞性動脈硬化症
・下肢の閉塞性動脈硬化症はCOPDの治療に必要な運動療法の妨げとなる。
・さらに心血管病変も伴っていることが多い。
・COPDの経過においてQOL低下が起りやすい。
Q. 高血圧
・高血圧を伴うCOPDでは、心臓の超音波検査で左室拡張障害が見られることが多く、息切れがさらに悪化することがある。
・高血圧の治療はガイドラインに従って行うことを原則とするが、高血圧治療目的でβ―ブロッカーを使用するときは慎重に行う。
Q. 骨粗鬆症
・COPDでの合併頻度は高い。
・特に肺気腫型のCOPDや低体重での合併が多い。
・COPDの増悪を頻回に起こしている場合には全身性ステロイド薬(経口、注射)による骨粗鬆症が進むことがある。
Q. 不安神経症、うつ病
・比較的若年、女性、喫煙者、一秒量が低値、心血管疾患がある場合のCOPDで頻度が高い。
・呼吸リハビリテーション、運動療法が効果的である。
Q. 肺がん
・一秒量の低下に伴い合併頻度が高くなる。
・喫煙量、期間と肺がんの頻度が関係する。
・胸部CTによる早期発見が原則である。
Q. メタボリック症候群
・COPDとの併存は約30%といわれるほど頻度が高い。
・糖尿病との合併頻度が特に高い。この場合の糖尿病の治療はガイドラインに従う。
Q. 胃食道逆流症
・COPDの増悪頻度が高まる。
・プロトン・ポンプ阻害薬を併用するがその効果については結論は出ていない。
Q. 気管支拡張症
・気管支拡張症の診断が未診断である場合が多い。胸部CT撮影が有用である。
・COPDの増悪頻度が高くなり、死亡率も高くなる。
・気管支拡張症の治療はガイドラインに従って行う。
・吸入ステロイド薬は感染を悪化させる可能性があるので使用しない。
Q. 閉塞性睡眠時無呼吸症候群
・米国での疫学データではCOPDの有病率は13.9% であり、他方、閉塞性睡眠時無呼吸症候群は9-26%であり、両者の併存の頻度は高い。
・両者の共存は、Overlap(オーバーラップ) 症候群と呼ばれている。
・合併例では夜間の低酸素血症が強くなり、さらに高二酸化炭素血症が見られることがありCOPDが増悪する頻度が高くなる。また、このような場合には肺高血圧症を起こしやすい。
問題点は、COPDがすでにあるのに気づいておらず、治療や適切な注意、指導を受けていない場合です。
高齢社会が進むにつれ、欧米ではCOPDの頻度は次第に高くなっており危機感が指摘されていますが、わが国ではあまり注目されていない点が問題です。
新型コロナウィルス肺炎の拡がりが心配されていますが、基礎疾患、持病を持つ高齢者が特に危険と言われています。COPDは、インフルエンザ感染などで増悪を起こし、冬季の死亡率を高めることは多くのデータで証明されています。COPDの早期発見、早期治療が特に大切であることを指摘しておきたいと思います。
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