2020年4月27日
ここで紹介する論文は、持病がある高齢者を例にして、現在までの信頼できるCOVID-19に関する情報を総括しています。引用文献は65編。中にはわが国のクルーズ船での集団感染の論文も引用されており情報を整頓するには便利です。
例として挙げられているのは次のような患者さんです。
73歳、男性。高血圧とCOPD(慢性閉塞性肺疾患;肺気腫、慢性気管支炎)で治療中。独居。2日前より発熱、最高38.3℃、空咳が出ていた。急に呼吸が苦しいと訴えているが、この場合、どのように治療を進めるべきか、それにはどのような情報があるか。軽症、中等症のCOVID-19として医療者が持つべき情報を総括しています。
Q. 軽症、中等症のCOVID-19の問題点とは何か?
・COVID-19は、SARS-CoV-2と呼ばれるRNAウィルスにより引き起こされる感染症である。症状は、咳、発熱、倦怠感、筋⾁痛、胃腸症状などがある。
・診断は通常、⿐咽頭粘膜を綿棒で擦過して得られた検体のPCRテストによるSARS-CoV-2の検出に基づいている。
・評価と治療、管理は、疾患の重症度によって異なる。軽症では通常、⾃宅待機で回復する。
・中等度、重症の患者は入院により経過の観察と治療を行う。
・薬物治療で現在、確立したものはない。臨床治験として実施されているので患者を臨床試験に紹介する。
・したがって、現時点での医療者向けの情報は、医療従事者の防護服など、感染予防の距離、検査方法である。
Q. コロナウィルスとは?
・コロナウィルスは4種類からRNAウィルスであり、そのうち、アルファとベータがヒトに感染する。感染は細胞内に入りこむ侵入ことによるがその侵入門戸がACE2(アンギオテンシン変換酵素2)受容体である。これを防ぐことからRNA依存性RNAポリメラーゼ、プロテアーゼが治療薬の候補に挙げられている。
Q. 感染の仕方?
・ウィルス(SARS-CoV-2)はヒトからヒトへと感染する。咳とくしゃみなどによる微粒子となった水滴を吸うことにより感染する。
・微粒子は通常、2m以上離れると感染しないとされている。
・エアロゾル化した状態では通常、感染しないとされているが、歌うことや、治療目的で気管内挿管やネブラーザーを行う場合には感染ウィルスを含むエアロゾルが3時間以上、残存している危険がある。
・糞便から口腔への感染は現在、実証されていない。
・段ボール、プラスチック、ステンレス鋼の表面には数日間、ウィルスが残ることがあり危険である。
・感染後、症状が出てくる前の1-3日間はウィルス量が急速に増えるのでもっとも感染させやすい。感染者の40-50%はこの時期に感染していると推定されている。感染後、1週間ごろまでゆっくりウィルス量は減少していく。ただし、重症者ではウィルスは長期間、排出する危険があり、その期間は不明である。
Q. 臨床症状は何か?
・感染から症状発現は、約4-5日間。感染者の97%は、11.5日以内に症状が発現する。
・症状は、発熱、咳、咽頭痛、倦怠感、筋肉痛。一部で吐き気、嘔吐、下痢の症状あり。息切れを伴う場合には重症例が多く、悪化の徴候である。
・危険因子は高齢者(65歳以上)、心血管疾患、COPDや喘息などの慢性呼吸器疾患、高血圧、糖尿病、肝疾患、肥満がある場合。腎臓病、免疫抑制剤、抗がん剤、などを使用中ではリスクが高くなる。
・血液検査データではリンパ球減少、Dダイマー、CRP、フェリチンなどの上昇が特徴。重症化する予後不良では、白血球数が増加しているにも関わらずリンパ球の比率が減少している場合、肝酵素、LDH、Dダイマー、IL-6、CRPの上昇がある場合。胸部X線写真では、スリガラス状の陰影、肺炎に一致する硬化像。
Q. どのように診断を確定するか?
・ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)アッセイによるSARS-CoV-2の検出による。
・症状の発症後まもなくの⿐咽頭スワブのPCRテストの感度は高いが、偽陰性のことがあり、症状から強く疑われる場合には再検査を実施する。
・痰の検査は採取の段階でエアロゾル化が懸念されリスクが高いためなるべく控える。
Q. 重症度の評価?
・中国からの初期データによると、患者の81%は中等度ないし軽症。14%は重篤で5%は最重症。
Q. 治療の経過?
・軽症では経過観察。
・悪化は呼吸困難が増強してきていないか、頻呼吸(1分間に30回以上の呼吸数)、酸素飽和度が93%以下となっていないか。胸部X所見で異常陰影が面積の50%以上を占めていないか。
・悪化していないかどうかはパルスオキシメータによる観察が有用である。
・通常の抗生物質の服薬は勧めない。
・季節性インフルエンザ感染の可能性がある場合には要確認。
・薬剤は臨床治験段階にとどまっており一定の投薬はない。
Q. 高血圧など治療の問題点?
・ウィルスの細胞内侵入口にあたるACE2は降圧剤の中で広く使われているACE阻害薬やアンギオテンシン受容体阻害薬(ARB)に作用してSARS-CoV-2を誘導する危険が指摘されている。しかし、降圧剤を中止すれば、心血管疾患が悪化していく危険がある。現時点では、降圧剤を変更すべきと結論できるほどのデータがない。
・鎮痛薬であるNSAIDsは使用しない方がよい。NSAIDsは市販されている。わが国では腰痛などで繁用されている張り薬にはNSAIDsが含まれているものが多い。この危険性は不明である。
・ステロイド薬は積極的には投与しない。
Q. 医療者の防護用医療機器?
・可能な限り遠隔医療を利用する。
・個人用保護具(PPE)を揃える。これらには少なくとも隔離用ガウン、⼿袋、フェイスマスク、および眼の保護具(ゴーグルまたは顔面シールド)が必要である。
・病室内ではできるだけエアロゾル化が起らないようにする。ネブライザーなどは使用しない。
Q. 治療方針の決定?
冒頭に例として提示した患者の診断、治療は以下の手順で行うのが良い。
1.PCR検査、血液検査、胸部X線撮影を急ぐ。
2.検査中などは必ずマスクを付けさせる。
3.持病、重症度から入院治療を開始する。
4.高血圧の投薬は変更しない。
5.臨床治験に入っている薬剤を投与する。
6.解熱、症状改善、PCR陰性化までの入院治療が必要である。
具体例として挙げられているような症例は、極めて多いと想定されます。特に、長い間の喫煙歴がある人ではCOPDのリスクは極めて高くなります。COPDについて適切な診断がなされていない人が大多数であることも問題です。
感染初期で症状が出るまでの4,5日間が問題です。この期間にさらに他の人に感染させないためにはPCR検査をできるだけ広い範囲で実施すること。全ての人が感染している可能性を疑い、濃厚接触をできるだけ避けることでしょう。
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