2020年4月30日
"ここ、2,3カ月間、咳が止まりません、緊張したときや音楽会にはとても困ります、夜、熟睡できません。"
長引く咳で困っている患者さんがたくさんいます。
ここでは長引く咳について分かっていることをご紹介します[1]。
Q. 咳は外来受診の中で最も多い症状の一つ。
・人口がわが国の約2倍の米国では、年間約3,000万人が咳症状で受診。外来治療では最も多い症状の1つ。呼吸器の診療の中では、40%を占める。
Q. 咳は症状が続く期間により分類されている。
・持続期間に基づいて分類されている。
急性の咳: 3週間未満、最も原因は急性気道感染症である。その他は、COPD(慢性閉塞性肺疾患;肺気腫、慢性気管支炎)の増悪状態、肺炎、肺血栓塞栓症などがある。
3週間以上続く咳は、亜急性(3〜8週間)または慢性(8週間以上)に分類される。
Q. 長引く咳は女性に多い。
・長引く咳は、女性に多い。女性は咳反射の感受性が高いことが理由と言われる。
Q. 咳はなぜどのようにして起こるか。
・咳は反射弓と呼ばれる複雑なルートに刺激が加えられると発作的に反応しておこる。
・反応のきっかけとなる咳受容体は、上気道、下気道の上皮細胞だけでなく、心外膜、食道、横隔膜、および胃にも存在する。これらのうちどこかが刺激されると咳が起る。つまり、カゼにより起こる上気道炎、肺炎により起こる下気道の炎症が代表だが、その他にも咳を起こす病変が多数ある。
・機序は、化学的な受容体刺激と機械的な受容体刺激に分かれる。
酸っぱいものを含む酸、冷たい空気、熱い空気、胡椒が含むカプサイシンなど、多彩な刺激が原因で咳受容体が刺激され、TRPV1、TRPA1に分類されるイオンチャネルが活性化されると咳反射を引き起こす。
機械的刺激に反応する咳受容器は、直接、触れることや機械的な刺激が加わると反応して咳反射を引き起こす。喉頭、気管、気管支にある受容体は、機械的刺激と化学的刺激の両方に反応して咳を起こす。
・刺激された咳受容器からのインパルスは、迷走神経を介して求心性経路を通過し、脳の髄質の「咳中枢」に達する。髄質の反応は、大脳皮質中枢の制御下にある可能性がある。これにより意識して咳をある程度は我慢できる。
・咳反射の感受性に男女差があり、女性が男性よりも慢性の咳を起こしやすい。
・咳の刺激は、迷走神経、横隔膜、および脊髄の運動神経を伝わり末梢に向かう遠心性信号となり呼気筋に到達して咳を発生させる。
Q. 咳の原因?
・慢性咳の最も多い原因は、鼻汁が喉に垂れ込んで起る上気道による咳症候群、喘息、および胃食道逆流症。
・亜急性の咳は、気道感染後に起こりやすく、感染の急性症状が消散した後も咳はしばしば持続する。ある研究では、亜急性咳の患者の半数近くが感染後であり、特定の治療なしで回復したことが報告されている。
・薬物の副作用で咳が長く続くことがある。高血圧の治療薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤による副作用が知られている。その他、緑内障に対する点眼薬、ベータブロッカーでも起こりうる。服薬や点眼薬開始の直後に起こることは少なく、2,3年間してから起こることがあり、注意を要する。
・慢性咳の原因には、気道に影響を与える多くの障害(非喘息性好酸球性気管支炎、慢性気管支炎、気管支拡張症、新生物、異物)または肺実質(間質性肺疾患、肺膿瘍)があるが慢性の咳の患者の75〜90%に原因が特定される。
・ただし、検査しても原因不明で数年間も持続する、原因不明の慢性の咳の場合があり、「慢性特発性咳」と呼ばれている。
Q. 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)患者の慢性の咳
・30%以上に見られる。原因は胃食道逆流症によるものが多い。持続的気道陽圧(CPAP)治療の開始でこのようなOSA患者の咳は大幅に改善することが報告されている。
Q. 百日咳の場合。
・流行期に青年および成⼈における慢性の咳の原因となることがある。
咳が止まらない場合に直ぐに咳止めを飲むという治療法は、必ずしも奏功しないことがあります。長引く咳は、原因を絞り込んで治療を行うのが標準的な治療法です。
咳が止まらないという患者さんで喫煙が原因と考えられる人をしばしば診ます。また、埃の多い職場でマスクなしで働く人にも咳が止まらないことがあります。
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