2020年5月26日
間質性肺炎は、私たち呼吸器医が診る病気の中では稀な病気ではありません。受診するきっかけは、空咳や、坂道を上るのが苦しくなってきたという自覚症状に拠る場合、健診の胸部レントゲン写真で異常を指摘される場合、他の病気の治療中に偶然発見され、詳しい検査が必要だからと紹介される場合などです。
ここでは、私たちが外来で患者さん、家族に説明するときの間質性肺炎のアウトラインを紹介します[1]。
Q. どのように分類されているか?
特発性間質性肺炎(略称、IIPs)として、比較的頻度の高い6種と稀な2種を分類する方法もあります。これは主に研究論文として厳密に分類が必要な時に使われています。
間質性肺炎は、原因や治療法の選択が異なるので大まかに以下のように分類し、治療法を区別しています。
・自己免疫疾患により引き起こされる場合。例えば、関節リウマチなどの膠原病などの合併症として間質性肺炎が起こる場合。
・癌、サルコイドーシスなどの場合。肺がんでは間質性肺炎が先行する場合を多く診ます。
・薬剤の副作用で起こる場合。以前、小柴胡湯という漢方薬の副作用で間質性肺炎が起こったことが話題となりましたが、現在では多種の薬による副作用として起こることが知られています。
・有害物質の吸入で起こる場合。アスベストの吸入により生じた間質性肺炎は良く知られています。以前、防水スプレーの吸入で重症の間質性肺炎を起こした患者さんを診たことがあります。防水スプレーに含まれる成分には、フッソ樹脂やシリコン樹脂などがあり、これらの粒子はとても細かいので、 吸い込む事で呼吸器系に障害が出ることがあります。
・肺がんや乳がんに対する放射線照射で起こる場合。放射線肺臓炎という名称がついています。
・特定の感染症の場合。特にウィルス性の感染症です。新型コロナウィルス感染症では十分に分かっていませんが治癒後、ある程度期間は注意する必要があります。
・特定の原因が見当たらない場合。実はこれが一番、頻度が高いのですが家族性の間質性肺炎が注目されています。
Q. どのような症状があるか?
代表的な症状は次の場合です。
・階段や坂道を上るときや、重い荷物を持つと息苦しくなる。
・空咳が止まらない。
しかし、これらの症状は、他の呼吸器疾患でもよくみられる症状です。
両方の症状が同時に起こることも、どちらか一方でとどまることがあり、症状は、数週間以上が続くことが多いことが特徴です。平地歩行中や入浴・排便などの日常生活で負荷がかかった状態で誘発されることが多いのでいつもと違うことに早めに気づくことが大切です。これらのことから人から指摘されて気づくより自分自身で気づき受診となることが多いようです。
Q. どのような年齢に多いか?
50歳から70歳までの男性にもっとも多くみられますが、近年、女性患者が増えてきています。
Q. どのような機序で発症するか?
・肺胞と気管支、細気管支の構造はブドウの房に例えられます。吸った空気(吸気)は気管や気管支、さらに細い細気管支を経て肺胞に至ります。ブドウの房状の構造を持つ肺胞は厚さが約1000分の10㎜(10μ)の壁を持つ繊細な構造で直径は100-200μです。全ての肺胞を広げると70-130平方メートル(一戸建ての家屋の床面積)に相当する表面積となります。この広さを持つから短時間の間に酸素―二酸化炭素の交換ができます。
・肺胞 の薄い壁の中(間質)を流れる毛細血管内の赤血球に酸素を与えると同時に二酸化炭素を取り出すガス交換が行われています。
・間質性肺炎は、さまざまな原因からこの薄い肺胞壁に広範な炎症や損傷がおこり、その結果、壁が厚く硬くなり、ガス交換ができなくなる疾患を指します。
・さらに肺胞の塊で肺の最小単位である小葉を囲んでいる小葉間隔壁や肺を包む胸膜が厚く線維化して肺が膨らみにくくなります。
・線維化が進んで肺が硬く縮むと、蜂巣肺といわれるような蜂の巣状の構造を示し、胸部CTで認められるようになります。
・線維化が進むと肺は次第に硬くなっていきますが、治療でこれを戻すことはできません。
・数年間にゆっくり進む場合と短期間に急速に進行する場合があります。
Q. どのように診察を進めるか?
・経過、症状から疑われるかどうかを判断します。
・診察では胸部の聴診でマジックテープを剥がすようなバリバリという音が聞かれます。
・また、指先の爪の根本が盛り上がってくるバチ状指が見られます。
Q. どのような検査を行うか?
・血液検査
KL-6、SP-D、SP-A、LDH、CRPのほか、動脈血ガス分析が必要である。膠原病が疑われる場合には疑いに応じて検査項目を追加していきます。
・画像検査
通常の胸部レントゲン写真、胸部CT、特に高感度CT(HRCT)は細部の読み取りが可能です。
・6分間歩行テスト
平地をなるべく速く、6分間歩き、距離、指先で酸素飽和度の低下がないか、息切れの程度、脈拍の変化などを調べ、日常生活の中でどのくらい酸素不足が起こっているかを調べます。歩いて酸素不足が高度の場合には夜間、就眠中に酸素不足が起こっていないかどうかを調べます。
・肺機能検査
肺の容積が減少していないか、気道を空気が通りにくくなっていないか、ガス交換能力の低下がないか、などを検査します。
・感染症や癌など通常の間質性肺炎とは異なるタイプが疑われる場合には気管支鏡検査、肺生検などを行うことがあります。
Q. 治療はどうするか?
・動脈血ガス分析で酸素の低下があれば酸素吸入を開始します。
・検査結果により効果が期待される場合には投薬を行います。
・抗線維化薬:ピルフェニドン、ニンテンダニブなど
・呼吸リハビリテーション
息切れの症状を緩和するために行います。
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