2020年6月3日
川崎病は、川崎富作先生が、現在の日赤医療センター勤務時代の1967年にそれまでは見られなかった新しい病気として50例を発表し、注目されてきた乳幼児の疾患です。粘膜皮膚リンパ節症候群とも呼ばれていますが、小児期に見られる代表的な血管炎の1つです。その血管炎も冠動脈に起こりやすいことが知られています。
その後、わが国だけではなく広く、欧米でも見られることが判明しました。成人ではまれにしか発生しません。これは発熱と急性炎症の症状が特徴的で治療なしでは平均12日間続きます。感染症で発症することが推定されていますがその人だけにとどまり、川崎病が他人に感染していくことはありません。
両側性の非滲出性結膜炎、唇および口腔粘膜の紅斑、発疹、四肢の変化、および頸部リンパ節腫脹、発熱および粘膜皮膚病変を伴う全身性の炎症を特徴とします。発表以来、半世紀を経たいまでも機序が不明ですが、冬季にカゼを引き起こすコロナウィルスの感染症がきっかけで起こることが多いことから関連性が注目されていました。
2020年2月から4月にかけてイタリアで新型コロナウィルス感染症 (Covid-19)が猛威威をふるったときに川崎病によく似た患者がこれまでの30倍の頻度でみられ、しかも、これまで報告されてきた川崎病とは少し異なっている点があることが発表され注目されています[1]。
Q. 研究のアウトライン
・イタリアのベルガモでCovid-19の感染者が多かった2020年2月18日より4月20日までに10例の川崎病患者が見られた。Covid-19流行前の19例と流行期の10例を比較した。
・過去5年間の月別の発症例数と比較すると川崎病の発症は30倍に達した。
・うち2例だけが鼻粘膜の擦過により新型コロナウィルスは確認されたが他の8例では証明されず、血中の抗体陽性が証明された。Covid-19としての典型症状は乏しかった。
・10例のうち5例は典型的な川崎病の症状がみられたが他の5例は、症状の一部が類似しており典型的な川崎病とは言えなかった。
・しかし、心血管病変は、非流行期には2/19 (10.5%)であったが今回の流行期では6/10 (60%)に達した。また、流行期群では肺炎は5/10(50%)であったが心臓の超音波所見では心機能の低下、僧帽弁の逆流は、10例、全例に認められた。
・非流行期の19人の平均年齢は3.0歳であったが、流行期の10人の平均年齢は7.5歳(2.9歳-16.0歳)と年長者が多かった。また、発症により重症となりショック状態となった比率は非流行期には0/19であったが流行期には5/10に達した。しかし、治療には免疫グロブリンやステロイド薬によく反応し、死亡者はいなかった。
Covid-19は、子供には感染者が少なく、しかも無症状者が多いといわれています。他方で、少数例ですが、冠動脈の動脈瘤など重症の心臓の異常をきたすことがあることがこの論文で注目されました。
欧米ではロックダウンの解除後に、症状が乏しい小児感染例が増加するのではないか、あるいは川崎病に似た病状を示す例が増加するのではないかと警戒されています。特にCovid-19の典型症状を欠く症例では、心血管の異常の発見が遅れ急死などに至る可能性があります。また、現在、川崎病に起こる冠動脈瘤を長期間フォロアップしたデータがないことも問題とされています。子供が知らないうちにCovid-19に感染し、治癒しても重い心疾患に気づかないで暮らしていることがあり得ます。また、従来は乳幼児の疾患であった川崎病が年長児でも見られていることに注意が必要です。
(追記)
2020年6月5日 川崎富作先生が、ご逝去されました。
享年95歳でした。ここに先生の業績に改めて敬意を表し、謹んでお悔やみ申し上げます。
木田 厚瑞
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