2020年6月11日
新型コロナウィルス感染症(Covid-19)の抑え込みに圧倒的な効果を示す薬が見つからないまま、死亡者は世界中で40万人近くに達しています (2020/06/07、現在)。
その中でレムデシビルは、効果がもっとも期待される治療薬の一つであり、2月6日、武漢で治験が開始されました。多施設共同治験で偽薬と実薬を比較する無作為抽出の二重盲検であり治験の中では最も難易度が高いものでした。
しかし、目標が453人に対し、237人で3月29日、急に中止されます。中断された治験データは当然、不完全であり、実薬により治癒までの期間は15日に対し、偽薬は21日で統計的な有意差はありませんでした。中止の理由は、武漢ではCovid-19の患者が少なくなり治験が継続できなくなった、というものです。報道発表の前にルールに反し、WHOがウェブで概略を公表するということがあり、その結果、製造にあたったギリアド・サイエンシズ社の株価が急落というおまけまでつきました。データを掲載した英国、Lancet誌で査読者は、基礎データで効果が十分に検証されないまま治験が開始され、臨床医側の協力が得られなかったのではないかと、控えめに弁護しています[1]が、突然の治験中断には最近の米中の不協和音の影響があるのではないかと推測されます。
Covid-19の有効な治療法の開発は科学の範囲を越えた熾烈な国家間の先陣争いになっています。
米国からは、先行する治験成績が発表されていますが観察成績に近いものでした[2, コラムNo.50]。このような背景の中で米国から発表された2つの治験成績は[3,4]、販売を前提とした第3相の治験としてパンデミックという難しい中で多数の重症例に対し、多施設共同治験で二重盲検による治験を遂行し、有効性を証明したもので最初の一歩と評価しています[5]。事実、ハーバード大学附属病院で経験された重症例では腎不全が強くなり治験中断、その後、死亡。その詳しい経過が病理と臨床の討論会の詳しい記録として発表されています[6]。
Q. レムデシビルの投薬が治癒を早めた [Beigel ら、3]
・投与方法:レムデシビル注射薬を、200㎎を第1日目に投与、以降、100㎎を9日間継続。実薬か、偽薬かは、患者も医師も知らされず。対象は診断が確定し、酸素投与が必要な程度の重症者。判断は、臨床像の変化を7ポイント法で評価。
・結果:1,059人を実薬群538人、偽薬群521人で比較。回復までの平均日数は実薬群が11日間、偽薬群が15日間で統計的な有意差あり。しかし、死亡率には差はなかった。
・副作用:実薬群では541人中114人、他方、偽薬群でも522人中の141人。
Q. レムデシビルの投与期間は5日間 か、10日間か [Goldman ら、4]
第3相の治験。無作為ではあるが実薬のみを投与。
投与方法:レムデシビル注射薬を、200㎎を第1日目に投与、以降、100㎎を4日間継続か、9日間継続の2群間で比較。無作為に分けた。対象例は診断が確定しており、血中の酸素飽和度が94%以下、胸部画像で肺炎の所見あり。判断は、臨床像の変化を7ポイント法で評価。
結果:397例を5日間群200人、10間群199人の間で比較。10日間群の予後が悪かった。これは対象例の選択でのバイアスがあったと推定された。投与開始14日目の判断で2ポイント以上の改善は、5日間群は64%、10日間群が54%で統計的な有意差なし。
副作用:吐き気9%、呼吸不全悪化8%、肝機能異常7%、便秘7%。
二つの治験成績を合わせると、レムデシビル投与で回復までの期間が4日間、短縮されたこと。さらに、5日間投与と10日間投与では差がなかったので5日間投与で十分、というのが結論です。
Beigel 論文では、タイトルに予備成績と記載されており、治験がパンデミックと言う非常時に実施された不十分な内容であることを断っています。他方、Goldman論文では、レムデシビルの供給が不十分な中でも苦衷の選択であると述べています。
ヒドロキシクロロキンなどの他の薬剤の治験がいずれも有効性を証明できなかったことからするとレムデシビルは現時点で唯一の治療薬となります。米国から発表された3つの論文[2-4]で有効性、限界性はかなり証明されたと云えます。しかし、臨床医の立場で言えばこの程度の効果か、という失望感があります。他方、有効性を証明する方法がこの3論文によりほぼ決められたことになり、これから出る新しい治療薬の有効性を検証するハードルの高さが決められたことになり、その点では興味があります。
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