2020年6月16日
咳が止まらないので、という患者さんをたくさん、診ます。慢性の咳とは3週間以上、続く場合を指します。また、3-8週間を亜急性、8週間以上を慢性と分類することもあります。
慢性の咳は医療機関を受診する多くの訴えの中では首位に近く、生活の質(QOL)を低下させる重要な問題となっています。
ロッテルダム研究は、オランダの小さな街の45歳以上の全住民を対象とし、慢性疾患についてのコホート研究として知られています。ここで行われた一般住民の慢性の咳の実態調査が報告されました[1]。ここでは、その成果を取り上げ、関連する事項を解説します[2]。
Q. どのように研究を進めたか?
・ロッテルダム研究は、近郊の小さな街で、45歳以上の住民の慢性疾患の実態についての継続的な調査研究である。ここでの報告は、2002-2008年間の6年間の調査で、対象は9,824人。
・専門医療者による質問票による面接調査。
Q. 調査結果は?
・計9,824人が対象。平均 66歳、女性が55.8%。慢性の咳は、1,073人に見られた(10.9%)。年齢別では、80歳以上にピークがあり、現喫煙者の男性に多い。70歳以下では女性に多い。
・多変量解析では、現喫煙者、逆流性食道炎(GERD)、喘息、COPD (慢性閉塞性肺疾患;肺気腫、慢性気管支炎)に慢性の咳が多かった。
・降圧剤、ACE阻害薬の服薬に伴う副作用が高齢者で多かった(22.7%)。
Q. 慢性の咳の頻度?
・慢性の咳には地域差が大きいことが知られている。
・オセアニア 18.1%, ヨーロッパ 12.7%, 米国 11.0%, アジア 4.4%, アフリカ 2.3%。ヨーロッパでは半数で原因が不明であり、過敏性咳症候群という病名で呼ばれている。
地域差、人種差は原因に遺伝的な影響があることを示唆する。
Q. 慢性の咳の原因?
・一般的には慢性の咳には以下が原因として挙げられている。
慢性副鼻腔炎、喘息、COPD, 肥満、GERD、肺がん、心不全、喫煙、職場での粉じん曝露、大気汚染、薬剤の副作用。
Q. 薬の副作用で起こる慢性の咳とは?
・ACE阻害薬として知られる高血圧の治療薬に多い。
✔通常は服薬開始から1週間以内に起こるが最長6ヶ月目以降に生じたという報告がある。
✔咳と同時に喉の痒みを訴えることが多い。
✔中止後、4-7日間で咳が止まるが最長では4週間続いた。再服薬で咳が再燃する。
✔女性に多い。
Q. その他の問題点?
・強い咳では1回の咳で2kcalを消耗すると云われている。
・強い咳で引き起こされる問題は以下がある:疲労感、不眠症、頭痛、めまい、筋肉痛、声枯れ、過度の発汗、尿失禁、肋骨の骨折(第7-9肋骨に多い)。
・血中の好酸球の増加をともなう場合は非喘息性好酸球性気管支炎が疑われ、吸入ステロイド薬が効果的である。
・難治性の咳では単なる咳止めを投与して治まる場合は少ない。
・閉塞性睡眠時無呼吸症候群では慢性の咳の発生率は約30%。多くはGERDによるがCPAP治療の開始で大幅な改善を見ることが多い。
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