2019年11月13日
COPD (慢性閉塞性肺疾患;肺気腫、慢性気管支炎)が進行してくると、病気は安定していますが動脈を流れる血液の中が酸素不足の状態に加え、二酸化炭素が過剰の状態になることがあります。酸素だけが不足した状態がI型慢性呼吸不全と呼ばれているのに対し、後者はII型慢性呼吸不全と呼ばれています。
II型慢性呼吸不全を伴う重症のCOPDの治療に対し、NPPV(非侵襲的陽圧換気)治療が効果的であることが知られています。
ここで紹介する論文はNPPVの新しい情報をまとめています。ここでは、概略を取り上げます。
Q. 取り組み方に欧州と米国の差があった
もともと、NPPV治療は主に英国で始まりました。80年代の終わりごろ、試験的に開始しました。開始した患者さんの症状が改善したこと、その中でNPPVの役割が次第に明らかにされてきたこと、この治療を開始するもっとも良い時期などの研究が進み、1990年代には広く使われるようになりました。ところが、米国ではこの治療の有効性が証明されなかったこと、民間の医療保険が多い米国ですんなりと受け入れられず、COPDの治療が複雑化してかえって悪くしてしまう可能性が高い、などの理由でから重症のCOPDにNPPV治療を行ってみても、という風潮となりました。
しかし最近では、米国ではCOPDの増悪による入院が、全入院の第3位に達しているという事情もあります。NPPVの機器の改善も進んできました。
Q. COPDで心不全を伴う場合に治療効果があった
きっかけは、近年、COPDの治療に効果的な薬が数多く使われるようになったこと、並行して行われる呼吸リハビリテーションの効果が大きく、これまでには治療できなかった重いCOPDでも大きく生存率を向上させるようになりました。重いCOPDで心不全を合併して入院となる患者さんが増えてきたこと、その場合に、重い心不全の治療目的で使われることになったASVと呼ばれる陽圧換気治療が治療効果を挙げたことが注目され、ほぼ同じ働きをもつNPPVが見直されることにもなりました。
Q. 心不全に対する陽圧換気呼吸とは
血液の中の二酸化炭素の濃度(分圧と呼びます)が、低い心不全で夜間睡眠中の呼吸が止まったあと次第に大きくなり、やがて次第に小さくなり、再び止まるような呼吸をくり返す場合にはチェーン・ストークス呼吸と呼ばれます。チェーン・ストークス呼吸は心不全の原因となることが知られています。この呼吸パターンを示す心不全の治療に睡眠時無呼吸症候群で、治療目的で使われているCPAPやASVが効果的であることがさらにヒントとなりました。
Q. II型慢性呼吸不全のCOPDの治療の難しさ
重症のCOPDでは気道が細くなり、空気の通りが悪くなること、肺組織の弾力性が低下して息を吐こうとしても肺が縮まってくれないことが続き、慢性的な呼吸困難が続きます。
吸ったり、吐いたりが十分にできない、小さく、速い呼吸状態が続きます。この状態では、呼吸を続けるためにもっとも大切な横隔膜が過剰に引き延ばされた形となり、仕事量が増えすぎた結果、血液中の二酸化炭素の濃度が慢性的に正常よりも高くなります。この状態がII型慢性呼吸不全です。
COPDの増悪が起こると二酸化炭素の濃度はさらに上昇し、ボーっとした危険な状態になります。また、普段から二酸化炭素の濃度が高いと、眠りが浅くなったり、起床時に頭痛がでたり、気分が悪く鬱々とした毎日になることが知られています。この時、睡眠薬や安定剤などを服薬すると、さらに二酸化炭素の濃度が高くなり危険な状態となります。また、二酸化炭素の濃度が少し高めのCOPDでは入院する回数が多くなることが知られています。
II型慢性呼吸不全を伴う重症のCOPDの在宅治療はもっとも難しい治療の一つです。当院では、連携病院と細かな連絡を取り合いながらNPPVの治療を進めています。最近、重症COPDの患者さん向きの新しい機種の導入も行っています。医師、看護師の技術力を上げ、さらに充実した治療体制を目指していきます。
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