2019年8月22日
わが国では、1985年、医療保険で在宅酸素療法が実施できるようになりました。現在、全国で約17万人がこの治療を受けています。
そのうち約40%は重い慢性閉塞性肺疾患(=肺気腫、慢性気管支炎、COPD)による高度の酸素不足です。
Q. 酸素の治療効果は何か
酸素不足がさまざまな障害を起こし、寿命が短くなることは今から約100年前に指摘されていました(1917)。実際に、重い慢性閉塞性肺疾患(=肺気腫、慢性気管支炎、COPD)の患者さんが使い、その治療効果が英国、米国でそれぞれ検証されたのは1980年ごろのことです。
酸素療法を行っている人の寿命は使っていない人より長く、さらに使用時間が長い人の方では治療効果が大きいという結果を受けて、わが国でも医療保険で酸素療法を実施できるようになりました。
Q. 酸素不足はなぜ悪いか
肺から取りいれられた酸素は血液により体中(からだじゅう)の臓器に運ばれていきます。血液中の酸素が極端に不足すると、細胞の核にHIF(低酸素誘導因子)が増え、これが広く傷害を与えることが知られています。
例えば、肺動脈を傷つけ、血液中の赤血球の数を過剰に増やすという作用です。その結果、心臓への負担が増し、肺の病気が心臓の作用を低下させます。
HIFの作用は近年の研究でも一部しか明らかになっていませんが、酸素不足が連鎖として体中(からだじゅう)の臓器に傷害を与えていくのが怖いのです。
Q. 夜間の酸素不足の問題とは
夜間の睡眠中に眠りの深いREM期になると健康人でも少し酸素不足になることが知られています。
COPDの患者さんの中には、酸素不足の幅が極端に大きくなることがあります。その大きな原因は、高齢化に伴い頸部の筋肉が緩みやすくなり、睡眠時無呼吸が加わってくることが多いためです。
寝ている間に繰り返し、強い酸素不足が起ると活性酸素が過剰となり、これが血管や脳を傷つける危険性が指摘されています。
昼間の酸素不足も危険ですが、安静にしている睡眠中の低酸素も同じように危険です。
Q. 酸素治療の効果について
酸素療法の効果を検証する研究は、いまも進められていますが、寿命を延長すること以外はまだ十分ではありません。研究の障壁は、重症のCOPDでは心臓や腎臓など他の臓器の病気を同時に抱えている場合が多く、酸素不足だけの影響だけを知ることが難しいことです。
COPDでは寿命の延長だけでなく、増悪の回数や入院の回数を減らすことが知られてきました。
Q. 酸素療法の注意点
酸素は他の薬のように処方箋で使う条件が厳密に決められています。酸素の量を厳密に決めて行うこと、吸入する時間を守ることが大切です。
酸素療法で息切れは軽くなりますが、吸う量を多くしたり、少なくすると副作用が出たり、十分な効果がでません。
いまでも酸素を吸いながらタバコをくわえ、火災や火傷を起こしたという報告を聞きます。厳重に注意して下さい。