診療内容
睡眠時無呼吸症候群
● 特徴
睡眠時無呼吸は無呼吸、低呼吸に至る原因によって閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea:OSA)と中枢性睡眠時無呼吸(central sleep apnea: CSA)に大きく分けられます。患者さんの大多数がOSAです。
・閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea:OSA)とは?
睡眠中に空気の通り道である上気道(鼻から喉まで)が閉塞してしまい、正常な呼吸ができない状態です。上気道が狭くなる原因として、1)肥満による喉の脂肪の増加、2)顎が小さい、下顎が後退している、鼻腔が狭いなどの骨格的な要素、3)舌の容積が大きい、4)扁桃の肥大などが挙げられます。最も多いのは肥満によるOSAです。体重が10%増えると中等症以上のOSAを発症するリスクが 6倍に増えます。また日本人は顎が小さな人が多く、スリムな体型でも治療の必要なOSAであることが少なくありません。50 歳代の女性の10%弱、男性は10~20%程度が中等症以上のSASであるといわれています。
・中枢性睡眠時無呼吸(central sleep apnea: CSA)とは?
脳の呼吸中枢の機能異常により、睡眠中に無呼吸を起こしている状態です。
心不全、心房細動、脳卒中、進行した腎不全などの併存症が背景にあることが多く、なかでも心不全は CSAの重要な病因のひとつです。
● 症状
睡眠中の窒息感やあえぎ呼吸、いびき、無呼吸の指摘、頻回の夜間尿、熟睡感がない、朝の頭痛、日中の過度の眠気、居眠りはSASでよくみられる症状です。高齢の女性では「なかなか寝付けない」という訴えの頻度が高いことも知られています。
また複数の降圧剤による治療でもコントロール困難な高血圧や夜間早朝高血圧の存在はSASを強く疑います。2型糖尿病や脂質異常症などの疾患をもつ人もSASを合併しやすいことがわかっています。
当院では、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息など慢性呼吸器疾患に合併したSASの方々の受診が多くなっています。またSASが心不全を悪化させたり、心房細動などの不整脈を誘発する原因となっていることがしばしばあります。睡眠中の強い低酸素状態と再酸素化の繰り返しが動脈硬化、長期的には冠動脈疾患や心筋梗塞などの発症を招くといわれています。SASと循環器疾患、糖尿病などの代謝疾患の合併があり、さらに専門的な検査、治療が必要な場合には、聖路加国際病院をはじめとする連携医療機関にご紹介しています。
● 診断
症状や併存疾患からSASが疑われる場合、検査を行います。睡眠中の呼吸の異常、低酸素状態の程度、睡眠の深さなどを調べます。当院では通常、自宅で携帯型装置による簡易検査を睡眠2回分行い、その結果からさらに詳しい検査が必要と判断される場合は 連携している施設にご紹介のうえ、入院での睡眠ポリグラフ検査(PSG)を行なっています。
● 治療
SASの重症度、併存症の有無、全身の状態、ライフスタイルなどを考慮し、最適な治療方針を決定します。
CPAP:
中等症以上のSASでは、経鼻的持続陽圧呼吸療法(Continuous positive airway pressure:CPAP)を保険診療で行います。CPAPはマスクを介して持続的に空気を送ることで、睡眠時に閉塞してしまっている上気道を広げる治療法です。
治療を開始することで睡眠の質の改善が期待できます。またCPAPを毎夜4時間以上装着することで高血圧と心血管イベントの頻度を抑え、将来的な心血管疾患のリスクを減らすことができます。一方でCPAP治療を中断後、2週間もすると自覚症状や朝の血圧上昇などの症状が戻ってしまうとも言われています。良好な使用状況を保つために、毎月、CPAPの治療効果を確認する必要があります 。 遠隔モニタリングシステムによって1ヶ月のCPAPの使用記録データがインターネットを介して当院に送信されます。併存症も含めて状態が安定している場合は、2ヶ月毎の通院も可能です。
口腔内装置(マウスピース):
軽症のSASは下顎を前方に移動させる口腔内装置(マウスピース)を使用して治療します。当院では口腔内装置の作製から効果判定、メンテナンスまで含め丁寧に進めていただける東京歯科大学水道橋病院にご紹介していますが、かかりつけの歯科で睡眠時無呼吸症候群の治療用の口腔内装置の作製が可能な場合にはご紹介することもできます。
耳鼻咽喉科での手術:
鼻中隔弯曲・アデノイド・口蓋扁桃肥大など解剖学的異常がSASの原因と考えられる場合、耳鼻咽喉科にご紹介します。
その他:
慢性心不全や慢性呼吸不全に併存するSASは、必要に応じてASV (adaptive servo ventilation)や在宅酸素療法を行なっています 。
過剰な飲酒や肥満など、SASを悪化させる要因がある場合はライフスタイルの見直し、減量などを日々の診療で提案します。必要に応じ、栄養士による栄養相談も行なっています。特に、肥満によるSASは、標準的な治療に加えて体重を減らすことが無呼吸の軽減につながると言われています。
参考文献:
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020